新規事業開発プロセスにおける社外の著名企業の効果 : キヤノンの液晶カラーフィルターの新規事業の事例分析 (柴田洋雄教授退職記念特集)
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概要
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はじめに:本稿の目的は、キャノンの液晶カラーフィルターの新規事業の失敗の事例を通じて、新規事業開発プロセスにおける社外の著名企業の効果(以下、著名効果)を分析することである。つまり、この新規事業の開発プロセスにおいてどのような種類の著名効果が存在し、どのように新規事業の推進に貢献したのか、またどのように成功が阻害され失敗に至ったかを分析することである。これまでこの論点からの新規事業の成功事例の調査分析として、精密機械コンポーネントの新規事業の中規模な成功事例(伊藤(2005a)(2007))、家庭用ゲーム機の新規事業の大規模な成功事例(伊藤(2005b))およびコンピュータソフトウェア分野の新規事業の小規模な成功事例(伊藤(2006a))があり、新規事業における社外からの著名効果の有効性が示されてきた。そこで、筆者は本稿で失敗した新規事業の事例における著名効果の調査分析を行うことが重要であると考えた。伊藤(2006b)においてこの論点から新規事業の失敗の事例を取り上げて調査分析を行った。しかし、伊藤(2006b)では失敗事例において事業展開以前の技術開発段階における著名効果のイノベーションの継続への貢献が明らかになったものの事業展開段階では著名効果は存在していなかった。そこで、本稿では、著名効果と新規事業の失敗との関係の有無やそのメカニズムをより明らかにするために、新規事業の早期から社外の著名企業との事業活動が存在するにも関わらず、新規事業が失敗に至った事例を取り上げて調査分析する。調査分析には、筆者の開発した著名効果の分析枠組みを用いる。なお、本稿では新規事業開発を、既存事業の流れのなかでは出てこない事業、すなわち既存事業の延長上にはない新規事業を、社内資源を活用して創造する努力をさす(榊原・大滝・沼上,1989)ものと定義する。また、著名とは簡潔に言えば有名であること、つまり名前が知れ渡っていることとする。ではなぜ著名効果の問題を扱うことが重要なのであろうか。まずその理由は筆者の先行研究の成果にある。筆者は伊藤(1999)の新規事業プロセスの分析から、社外の著名・ブランド企業(以下、著名企業)との事業活動とその実績が新規事業の成功に様々な点で貢献するのではないかと考察した。さらに新規事業業務に携わる実務家と筆者との対話では、実務家は新規事業のマネジメントにおいて著名企業との活動が重要であると漠然と思っているが、その効果の構造がどのようになっているかを理解していなかった。このような理由から筆者は著名効果を解明するため従来主に社会学の分野で論じられてきた著名の概念を用いて、新規事業開発プロセスの成功のメカニズムを解明することを目指してきた。具体的には新規事業開発プロセスの先行研究のレビューを行い(伊藤,2002a)、オープンな新規事業開発プロセスの研究が空白領域であることを見出した。さらに著名の概念やその効果さらにブランドの効果の先行研究のレビューを行った(伊藤,2002b)。そしてこれらの成果に基づき著名効果に関する仮説群を構築し(伊藤,2003)、これらをもとに著名効果の分析枠組みを構築した(伊藤,2005)。そして、この分析枠組みを用いて、前述のように新規事業の成功事例の調査分析を行った(伊藤(2005)(2006a)(2007))。さらに技術開発には成功したものの新規事業の事業化において失敗した事例の調査分析を行った(伊藤(2006b))。本稿ではこれらに続き、著名効果の論点から新規事業の失敗の事例としてキヤノンの液晶カラーフィルターの新規事業の単一事例の調査分析を行い、著名効果と新規事業の成功・失敗との関係のメカニズムの解明をさらに進めるものである。
- 2008-07-31
著者
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