非定型抗精神病薬オランザピンとアリピプラゾールの急性投与による家兎海馬における興奮性シナプス伝達およびドーパミン,セロトニン濃度に及ぼす影響について
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概要
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[目的]新しい抗精神病薬である非定型抗精神病薬のはたらきとして,陰性症状および認知機能障害の改善効果と,興奮性シナプス伝達の増強およびserotonin (5-HT)受容体への作用と関連したdopamine (DA)濃度の増加が知られている。本研究ではこの非定型抗精神病薬の陰性症状および認知機能障害の改善効果のメカニズムを探る目的で,MARTA (multi-acting receptor targeted agent)の代表であるolanzapineと,D_2受容体部分作動薬であるaripiprazoleについて,特に認知機能と関係の深い海馬における興奮性シナプス伝達およびDA,5-HTの細胞外濃度に及ぼす影響を研究した。[方法]30羽の家兎の一側海馬歯状回にガイドカニューレと記録電極を,同側貫通路に刺激電極を植え込み,慢性条件下で実験を行った。対照記録として貫通路に一定強度の単発刺激を行い,集合スパイク(population spike,PS)と集合EPSPから成る海馬貫通路-歯状回反応波を記録した。次に対照群では溶媒のみを,olanzapine投与群では10,20mg/kgを,aripiprazole投与群では10,20,40mg/kgをそれぞれ腹腔内投与し,投与後すぐに再び反応波を記録した。次に貫通路に弱いテタヌス刺激を加え,海馬歯状回における長期増強現象(long-term potentiation,LTP)の発現を観察した。DA,5-HT濃度は微小透析法により全実験時間中,5分毎に測定した。[結果]Olanzapineとaripiprazoleの両方とも,どの用量の投与群でも投与後で単発刺激による貫通路-歯状回反応波の興奮性シナプス伝達の変化は見られなかったが,テタヌス刺激によるLTPの発現が抑制された。一方,DA濃度はolanzapine 10mg/kgの投与では有意な変化を認めなかったが,20mg/kgの投与後で有意に上昇した。Aripiprazoleではどの投与群でもDA濃度は変化しなかった。5-HT濃度はolanzapineもaripiprazoleも,どの用量の投与群でも変化しなかった。[結論]OlanzapineはDAの増加を生じ,これが統合失調症の陰性症状および認知機能障害の改善と関係する可能性がある。一方,aripiprazoleは興奮性シナプス伝達の増強もDAの増加も起こさず,その臨床効果にはこれらとは別な機序が関係すると考えられる。ただし,本実験におけるLTPの発現の抑制はむしろ,薬物の副作用としての陰性症状および認知機能障害類似症状の誘発と関係する可能性も除外できない。
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