クロザピン誘発性興奮性シナプス伝達増強現象における家兎脳内ドーパミン濃度の増加
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概要
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【目的】非定型抗精神病薬の代表的な薬物の一つであるclozapine (CLZ)により家兎海馬歯状回で誘発される興奮性シナプス伝達の増強(CLZ-induced potentiation)は,非定型抗精神病薬に特有な統合失調症の陰性症状や認知機能の改善に関係する可能性が示唆されている。本研究ではこのCLZ-induced potentiationの発現機序を研究する目的で,微小透析法を用いて,この現象発現時の海馬歯状回でのglutamate (Glu),dopamine (DA),serotonin (5-HT)濃度の変化を経時的に研究した。【方法】25例の家兎の一側海馬歯状回にガイドカニューレと記録電極を組み合わせたものを,また同側貫通路に刺激電極を植え込み,慢性条件下で実験をおこなった。実験はまず対照記録として一定強度の単発刺激を行い,集合spike (PS)と集合EPSPからなる貫通路一歯状回反応波を記録し,次に筋注により溶媒のみを投与した対照群10例およびCLZ 20mg/kgを投与したCLZ投与群15例で,それぞれの投与後に再び反応波を記録した。その後,対照群10例のすべてと,CLZ投与群15例中10例で,貫通路に弱いテタヌス刺激を加えた後,単発刺激による反応波を再度記録して長期増強long-term potentiation (LTP)の発現の有無を観察した。CLZ投与群の残り5例では,このテタヌス刺激を加えず反応波の変化を長期観察した。すべての家兎で,実験開始から終了まで,ガイドカニューレに挿入したマイクロプローブから海馬歯状回での細胞外灌流液を5分ごとに10μ1ずつ継時的に採取し,Glu,DA,5-HTの濃度を測定した。全ての実験は,「金沢医科大学動物実験指針」に基づいて行った。【結果】CLZ投与群では15例のすべてでCLZ投与後,PSと集合EPSPの増強から成る興奮性シナプス伝達の増強現象すなわちCLZ-induced potentiationがみられ,またその15例中10例ではテタヌス刺激によって対照群とほぼ同様なLTPの発現がみられた。Glu,5-HT濃度はCLZ-induced potentiationに対応した有意な濃度の変化はなかった。しかしDA濃度はCLZ投与後すぐに,CLZ-induced potentiationによる反応波の増大に一致して有意な増加を示し,しかもその増加は観察期間中(2時間)持続した。Glu,5-HT,DAの3者ともにLTPの発現に対応した有意な変化は示さなかった。【結論】今回みられたCLZ-induced potentiationにおける脳内DAの増加は,その興奮性シナプス伝達増強へのDAの関与を示唆するものと考えられる。
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