量子固体^3Heにおける転位の量子運動とピン止め機構(摩擦の物理,研究会報告)
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概要
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固体に外部応力が加えると変形するが、一般に応力を除いても固体は完全には元には戻らない。これは固体中に存在する転位が運動するためであり、その運動は摩擦(内部摩擦)を伴うのでエネルギーを損失する。転位は線状の格子欠陥でありパイエルスポテンシャルと呼ばれる結晶場を乗り越えて運動している。また、金属やイオン結晶では転位の運動は両端がピン止めされた弦模型で良く記述されている。現実の固体の機械的性質はパイエルスポテンシャルで決まることはまれであり、それよりも遥かに大きな不純物と転位との相互作用に依存する。そのため転位運動のパイエルス過程を研究するためには1ppmより遥かに高純度の固体が必要であるが実現はなかなか困難である。この点、^3Heは不純物を極低温で吸着により除去できるので極めて純粋な固体を作ることができる。^3Heに最後に残る不純物は同位体の^4Heであるが、蒸気圧の違いを利用してあらかじめ極低温で蒸留して数ppmまで除いた後、残留原子を極低温で銀の超微粒子の表面に吸着することにより除去する。^4He原子の吸着エネルギーは^3Heより大きいので、我々の実験温度領域では固体^3Heの純度は十のマイナス20乗以上と計算される。このように金属やイオン結晶では実現不可能な超高純度を達成できるので、固体^3Heは転位運動のパイエルス過程を研究するのに最も適した対象である。ただし、固体^3Heは零点振動が大きく、加圧しなければ固化しないので自由表面が無く、通常の固体のように引っ張り試験はできない。また、過去に超音波測定の例もあるが転位運動に対する感度が充分でなかった。そこで我々は捻れ振動子を用いて固体^3Heの剛性率とエネルギー損失を同時に測定している。この方法は振動数を測定中に可変できないが、共鳴振動を利用するので著しく感度が高い。この測定手段により、固体^3Heにおける損失の温度依存性は、転位とフォノンの相互作用で説明されることが示された。通常の固体と同様に、固体^4Heにおける転位の運動は両端がピン止めされた弦模型で良く記述されている。固体^4Heの場合、不純物である^3He原子は壁の表面に吸着されないために、ある混合比までバルクに溶解できる。そして転位をピン止めする現象が報告されている。しかし、固体^3Heの本実験ではピン止めする不純物が無視できるにもかかわらず、やはりピン止め現象が剛性率と損失の温度変化に見られた。
- 2001-05-20
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