電磁波の生体への影響 : ホルモン作用仮説の提唱(京都大学基礎物理学研究所研究会報告書『電磁波と生体への影響』,研究会報告)
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概要
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本稿の基盤には、私自身の20余年間の研究史がある。この間、振動的筋収縮現象、神経興奮現象、鞭毛・繊毛運動の時間・空間カオス的現象、ソリトン的波動現象、およびバースト的発振現象を総合的に論じた'細胞運動理論'(M. Murase, 1992)、プリオン病・アルツハイマー病、さらにはがんや自己免疫疾患を含む老化現象を、ダーウイン進化論(C. Darwin, 1859)および免疫系の自然選択説(N. K. Jerne, 1955; F. M. Burnet, 1957)を統合して論考しだ生体内分子選択説'(M. Murase, 1996)、生命の起源や分化・発生・進化に見られる自己組織化現象、および疾患や老化・死といった自己崩壊現象を統一的に捉えた'自己・非自己循環理論'(村瀬雅俊、2000)、さらに統合失調症をはじめとする、認識過程の成立と破綻に着目し、ピアジェの発生的認識論(J.ピアジェ、1960; 1972)とリードルの進化論的認識論(R.リードル、1990)を統合した'構成的認識論'(村瀬雅俊、2001)を提唱してきた。そして、今ここに、21世紀の環境問題としてクローズアップされてきた電磁波の生体への影響に関して'電磁波ホルモン作用仮説'を提唱したい。'ホルモン作用仮説'とは、特定周波数、特定強度の電磁波を細胞や脳神経系に特定時間照射することによって生理活性作用-いわゆる、ホルモン作用-がおよぼされるという仮説である。電磁波の作用部位の候補として、細胞レベルでは、細胞の「内」と「外」の情報を統合し、細胞増殖やホルモン分泌などを制御する、'G-タンパク質(M. I. Simon, et al., 1991; T. D. Lamb and E. N. Pugh, Jr., 1992; M. E.リンダー、A. G.ギルマン、1992; R. A. Luben, 1995; 兜 真徳、石堂正美、2001)と呼ばれる情報統合分子が考えられる。また、脳神経系レベルでは、体温や血液成分の変化といった生体からの「内部環境」の情報と、感覚系を介して知覚される外界からの「外部環境」の情報とを統合する大脳辺縁系が考えられる。この'ホルモン作用仮説'の重要な点は、細胞レベルあるいは脳神経系レベルのそれぞれの階層レベルにおいて、入力刺激が機械的なものか、化学的なものか、生物学的なものか、あるいは電磁気学的なものかにかかわらず、各階層レベルごとに同じような情報伝達経路が'構成的に選択'されてしまうことである。しかも、'構成的に選択'された情報伝達経路の'表現型'を眺めてみると、入力刺激の'影響'の発現のあり方が実に多様なのである。言い換えるならば、環境認識のあり方に多様性があり、その多様な反応様式のなかに、いわゆる環境病が発症してしまう危険性も含まれてしまうことになる。しかも、環境病の発症にあっては、認識過程自体が支障をきたすために、本人は自らの病的状態を認識することが極めて困難となる。こうしたいわゆる'病徴不覚症'(A. ダマシオ、1994)のような病態が、環境因子の生体への影響に関する評価を難しくしている。また、特に本稿では、'電磁波ホルモン作用仮説'に基づいて、さまざまな病理や病態を、細胞レベルや脳神経系レベルでの情報統合の障害として捉え直す'ものの見方'を提示し、その有効性を強調したい。そのような'ものの見方'をすることによって、細胞増殖抑制を逃れるがん細胞の発生、環境刺激因子に対して過敏に反応してしまう過敏症、さらに高次レベルの発達異常や行動障害といった病態を、それらの見かけ上の多様性・複雑性に惑わされることなく、統一的に理解することができる。
- 2004-04-20
著者
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