草地生態系のシステムズアプローチ : 1.エネルギーと物質の流れに関する実験的研究
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概要
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草地生態系を一つの生き物,すなわち,時間とともにある秩序にしたがって動き変化していく物体として捉え,その動きをシステムズアプローチによって追求しようとする試みが1960年代の後半に入って活発になってきた。このような研究方法には2段階があって,その第一段階は,生態系の中でエネルギーや物質がどのように動いているかを実験的手法を用いて理解する段階である。第二段階は生態系をなんらかの数学的な系,たとえばシステムモデルの系に移して,その系の上で生態系の動態を調べる段階である。本編では,このうち,エネルギーと物質の流れに関する実験的研究,特に,1970年代以降に得られた成果についてふれる。草地生態系におけるエネルギーの流れに関する研究はこの20年間にわたる蓄積が大きく,それらの研究からは,1年間に降り注ぐ太陽エネルギー(たとえば関東地方では,約10^<10>kcal/ha/年あるいは4.18×10^<10>kJ/ha/年)の0.5%〜1%を牧草が固定し,放牧してある家畜には太陽エネルギーの約0.01%が蓄積されることが明らかにされている。窒素の流れの研究もこの20年間,いくつかの草地で行われてきた。窒素の流れの中で,施肥窒素の流れは牧草生産に大きな影響を及ぼしているが,家畜へのエネルギーの蓄積に対する寄与はごく小さいことが多い。それゆえ,施肥及び牧草生産計画が家畜生産に適合するような合理的な放牧計画を確立することが求められている。燐や燐酸の収支を求める実験的研究の数はごく限られている。わが国では放牧草地の多くは火山灰土壌から成立していて,酸性が強いため,土壌中の燐酸のほとんどは不活性化している。土壌微生物を利用して,活性化する可能性が検討されており,草地における燐収支についてこのような研究は興味深い。加里や炭素の収支を実測した例も少ない。西那須野の草地について実測された炭素の流れの例では,耕地と異なり,土壌中への蓄積がみられるから,草地も森林とは比べものにはならないけれども,炭素を蓄積する能力を持っていると考えられる。エネルギーや物質の流れの研究は生態学にとってはすでに目新しいものではなくなっている。しかしながら,半乾燥地帯における植生を維持し,熱帯降雨林やその草原で生産を継続して行くためには,エネルギーと物質収支のバランスを考えた生態学的な観点からの技術開発が求められている。
- 日本草地学会の論文
- 1989-03-31
著者
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