過去形の罪 : 自己責任の病い、糖尿病と向き合う
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概要
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-病気の原因は発病した本人にあるとする-病気の自己責任論とは、糖尿病の場合、「過度のカロリー摂取」や「運動不足」といったリスクファクターを十分に回避しなかった結果として発病したという考え方である。本稿では、そうした考え方が糖尿病患者自身による病因の説明や治療同意にどのような影響を与えているのかを、T・パーソンズが定式化した「病人役割」に沿って検討する。着目するのは、回復に努める義務、必要な場合には医師に協力する義務と引き換えに、「その状態に対して責任をとらなくてよい」という合法的な免責である。いうまでもなく、多くの他の疾患をもつ患者と同様、糖尿病患者は法的責任からは免除されている。しかし、発病の責任と自己管理の責任(義務)が、治療において一体化し、両者が個人の意図的行為の結果に置かれることによって、病因に関する道徳的責任にっいては、つねに免除される訳ではないという状況が生み出されている。そもそも、ここでの治療の対象となっている自覚症状がない糖尿病「患者」は、通常の役割を遂行できない「病人」(逸脱者)とはいえず、さらに回復がほぼ不可能な糖尿病の場合、回復に努める義務は、無期限の(合併症)予防の義務へとスライドしている。近代医学が統制しようとするのは、あくまでもリスク計算に基づく将来的な「逸脱者」予備軍であり、そうした「治療」実践(教育を含め)自体が、過去において道徳的「逸脱」を負った自己-「罪人」としての自己-を生みだしているといえるだろう。
- 2007-01-15