もう一つの男女という問題 : イタリアの〔ヘテロ〕セクシズム機制の再考をとおして(<特集>ジェンダーの人類学-その困難からの展開)
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概要
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性に関する研究(ジェンダーおよびセクシュアリティに関する研究)は、特に90年代以降の〔ヘテロ〕セクシズム批判を受けて、大さく変化しつつある。人類学に限ってもその傾向は変わらない。しかし、その一方で、〔ヘテロ〕セクシズムの機制はさらに巧妙に性差研究を被いつつあるという側面もある。例えば、近年の研究関心は、異性愛以外の多様な性に移行している一方で、異性愛の男女にかんしては、せいぜい異性愛主義として批判されるのみで、それ以上の議論がなされにくくなっているが、その状況自体が、異性愛主義の裏返しに過ぎない。本稿は、そうした現状に新たな展開を具体的にもたらしていくために、イタリア社会という事例を用いて、あえて男女という問題系の考察に取り組み、〔ヘテロ〕セクシズム言説に還元されない男女の言説を見出していきたい。イタリアの性とは、極めて男性中心主義的かつ異性愛主義的であり、ゆえに一見〔ヘテロ〕セクシズム的な社会であるように見える。しかしその機制は、いくら支配的なものであれ、或る文脈での語りにすぎず、実際、アモーレという別の文脈からは、〔ヘテロ〕セクシズムとは大きく異なる語り方が浮かび上がってくる。それは、簡単に言えば、差異そのものとしての男女というあり方であり、これが彼らの***スの根底にあると見なすこともできる。そして、それらが互いに多元的に接合することによってイタリア社会の性言説が構築されていると考えられるのである。性差研究、特にセクシュアリティ研究は、その急激な進展の一方で、まだ始まったばかりでもある。それゆえ、その問題構成自体がいまだ〔ヘテロ〕セクシズム批判という枠に囚われて矮小化されている傾向があるが、我々はだからこそ、その枠組に対する批判をさらに徹底していきながら、問題構成自体の建て直しに積極的に取り組んでいく必要があるだろう。
- 2003-12-30
著者
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- 序(ジェンダーの人類学-その困難からの展開)
- 中谷文美著, 『「女の仕事」のエスノグラフィー-バリ島の布・儀礼・ジェンダー』, 京都, 世界思想社, 2003年, 283頁, 2,300円(+税)
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