親密な他者 : フィリピン地方都市の呪医実践より
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概要
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近年の呪術と近代論や多元的医療体系モデルにおいては、非合理で未開なものとして近代から対置されてきた呪術や伝統医療が、近代の文脈内に位置づけられている。しかしながら、それは同時に呪術や伝統医療を近代化への批判や抵抗として道具化してもいる。一見相反する対置と道具化という作用を持ちながら、他者化によって近代的主体の権威を強化するという共通構造をもつそれら2つの認識を、本稿では<他者I>、<他者II>として定式化する。その上で、フィリピン地方都市の呪医実践の事例から、近代的主体への従属を逃れ出る他者のあり方、すなわち<他者III>の可能性を探ろうと試みる。フィリピン地方都市ロハスの呪医数は近年、急増している。また、その実践は病治しを軸として、精霊への供物儀礼や占いなどに彩られる多義的な性質を有する。フィリピン社会の近代的な支配的言説であるカトリックと近代医療との関係からみたとき、呪医実践は「異端」や「偽医者」であるとして抑圧されている。しかし、呪医はカトリックに対しては「敬慶」さを、近代医療へは「正統性」を強調することによって活動の継続を可能にしている。そこに、支配的言説に対する呪医の「親密性」を見て取ることができる。以上の事例から、カトリックや近代医療との支配/被支配の関係はそのままに、呪医が「親密性」によって支配的言説のロジックをたどりなおす脱構築的実践を行っていること、またその際にわずかながら白己表象を他者表象へと侵入させていることが明らかになる。そのような微細な日常的実践の場に、<他者III>の契機が見出されるのである。
- 2006-06-30
著者
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- 阿部年晴・小田亮・近藤英俊編, 『呪術化するモダニティ-現代アフリカの宗教的実践から-』, 風響社, 二〇〇七年五月三〇日刊, A5判, 四〇四頁 六〇〇〇円+税