在中国日系企業の集団的労使関係に関する研究 : 「工会」を巡る状況を中心に
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概要
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本稿の目的は、中国における昨今の労働事情や労働行政の変化を踏まえ、在中国日系企業における集団的労使関係について、筆者が実施したアンケート調査を中心に考察することにある。1995年の「労働法」施行に象徴されるように、「改革・開放」以降の中国では「鉄飯椀」や「大鍋飯」の打破に向け、様々な施策が実施されてきた。こうした雇用システムの変革は、企業経営において「能力主義・成果主義」人事や労働力の「流動化」を促進することにより人材と組織を活性化させるとともに、中国全体の高度経済成長に寄与したものと考えられる。しかし、その反面、一連の改革が「格差問題」を誘発し、労働争議やストライキなど「労使間の摩擦」を顕在化させたという側面も否定できない。このような状況下、中国政府・共産党は、2001年に「工会法」を改正し、「工会設立の義務づけ」や「工会の機能強化」により労使関係の安定を企図しようとしている。その結果、近年の中国では「基層工会」数や「労働協約締結企業」数が驚異的な伸びを示すなど「マクロ」面で目覚しい成果を挙げている。しかし、筆者が実施したアンケート調査によると、日系企業の集団的労使関係には以下のような課題があることを指摘できる。第一は、「上からの(与えられた)労使関係」の様相が感じ取れるという点である。それは、日系企業における労働協約の締結が社内の労使の必要性よりも社外の労働関係機関の意向を反映した事象であること、経営側と工会の「定期協議・情報交換」といった労使の日常的なコミュニケーションが少ないことなど、上で述べた「マクロ」面とのギャップに現れている。第二は、「労使一体」の関係である。すなわち、日系企業では工会主席の「専従化」が進展せず、職制の管理者以上の兼任が依然として主流である。こうした中、今後日系企業においては、労使双方の立場を明確化するとともに、「職能的分化」による所得格差の拡大や農村戸籍労働者の合法的権益保護の問題等への対応を図ることが求められると言えよう。第三は、「労働争議やストライキへの工会の抑止力・対応力不足」という問題である。日系企業では工会が労使間の摩擦の防止・解決に大きな役割を果たしているとは言い難く、工会の設立が即時に労働争議やストライキの抑止力として作用するものでないと思われる。そして、第四は、工会が抱える「二重の任務」に関するものである。中国の関連法規によると、工会は「従業員の代表」であるとともに、党と従業員をつなぐ「架け橋・絆」として位置づけられている。こうした組織体としての「多義性」に工会がどのように対応していくかも課題であると言える。
- 2006-09-30
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