アンドレイ・ベールイ『銀の鳩』における<酩酊>のトポス
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概要
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アンドレイ・ベールイの『銀の鳩』の<酩酊>のトポス(=野、居酒屋)を、文学・文化的コンテクストにおいて検討することは、作品の主題、他の文学作品との影響関係を明確にするだけでなく、作品の根底にある世界観が同時代の思潮にどのように村峙させられているかを示唆する。第一に<野>の描写を、『銀の鳩』ではワインがセクトの奥義のメタファーであることを念頭に考察する。<野>は、物語の冒頭では「空ろな空間」だが、主人公ダリヤリスキーがセクトに眩惑されると同時に「夕焼けのワイン」で満たされ、彼がセクトに幻滅すると同時に「空ろな灰色の野」に戻る。<野>とダリヤリスキーの精神状態をパラレルに措くことで、作者はダリヤリスキーの悲劇と死をロシアの野に投影している。<野>は、チュッチェフ、メレシコフスキー、ベールイ自身が、ロシア的イデー創生の場として夢みたトポスであり、他ならぬこの場に終末の色彩を付与することによって、古い理念の失墜が暗示される。また<野の酩酊>の描写は、ベールイが傾倒したアルゴナウタイ神話やオカルトの文脈で理解することもできる。第二に<村の居酒屋>の描写を、ロシア文学で措かれる酒場のイメージと比較することにより、『銀の鳩』では<居酒屋>が「主人公の運命を決定する場所」というドストエフスキー的な酒場の要素と、「酩酊してもう一つの世界をかいまみる」というブロークの『見知らぬ女』的要素を持つことを示す。しかしブロークの詩では、酒場は酩酊した主人公=夢想者が夢の世界と現実世界を行き来するトポスであるのに対し、『銀の鳩』の<居酒屋>は間接的に<セクトへの扉>として機能している。粗野で地獄絵のような<居酒屋>の描写は、ブロークの措く高貴な神秘的酩酊に村するアイロニーでもあり、あらゆる<酩酊>、すなわち<神話>信仰全般(ソフィア崇拝、新興宗教、当時文壇に蔓延していたオカルト主義等)に対する痛烈な批判として読むことができる。
- 2003-05-31
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