動機と法主体のアイデンティティ(III 研究ノート)
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概要
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本論文は,法主体(刑事裁判で被告人として裁きを受けている者)の「アイデンティティ」について考えるに当たり,BlumとMcHughの動機に関する理論的な見方が示唆ところを吟味する.BlumとMcHughによれば,行為者への動機の付与は,行為者をある人物類型としてカテゴリー化する効果がある.つまり,動機の付与による行為者のカテゴリー化によって,その者の行為は人物類型に還元して説明され,また,その人物類型の結果として理解されることとなるので,行為者のカテゴリー化はその者の自由意思を制限することとなる.しかしながら,この論文は,行為者に動機を付与するプロセスは,BlumとMcHughが主張するほど,一様であるわけではないことを示す.つまり,動機の付与が法主体(及び一般の行為者)を特定の人物類型としていかにカテゴリー化するかは,各事例の特性に左右される.具体的には,犯行は初犯であるかどうか,特別な事情の有無,また,これらの事項を吟味する人々が刑罰に関して抱く理念などが,動機の付与に影響を及ぼす.したがって法主体のアイデンティティは,(あらかじめ)固定されたものではない.むしろ,法主体のアイデンティティは,事例の特性の解釈によって-であるからこそ,一つ一つの事例において(再)構築されるものとして-ある時には自由意思を持つ者として,ある時には,もっと固定化された(ときに病理的な)主体として構築される.
- 日本犯罪社会学会の論文
- 2003-10-18