形態認知の発達的研究I
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概要
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幼児の形態弁別力の発達はどのようになされてゆくか,又そこで触運動的操作がどのような役割を果しているか,を検討するために実験を行った。実験手続の骨子は8種の図形の分類法であるが,この際,次の二種の条件が設定された。A:形の輪廓通りの図形を分類カードとする。ここでは被験者は対象を触運動的に操作することが可能である。B:形が貼布された正方形カードを分類する。ここでは形の輪廓を触知することはできず,もっぱら視知覚的に弁別することが要求される。被験者は4・5・6才の幼稚園児。各グループ16人ずつ。計96人。以上の方法により次のような結果が得られた。1.反応時間(カード呈示から分類までに要する時間),誤り(同一でない形に分類した反応)いずれの面についても,年令によって有意な差がみられ,年令の上昇に伴って形態の弁別が正確,かつ速やかになされるようになることを示している。2.条件Aにおいて反応時間は条件Bよりも有意に短い。これは4〜6才いずれの段階においても認められる。対象の触運動的操作が弁別を速やかにさせることを示している。又,誤りの数については有意差には達しないが,B条件下で増加する傾向を示している。これらの結果は対象を触運動的に操作することが形態の弁別を促進し,又,より正確な把握を増加するというように,積極的な効果をもっていることを示している。3.反応時間,誤り数いずれにも図形差が顕著に見出された。しかも反応時間の長短と,誤りの多少によって8種の図形の順位ずけを行なってみると,極めて一致した順位が得られた。これは本実験で用いた8種の図形間に弁別の難易度の相違があることを示している。難易度は幼児がある形態を他の形態から弁別する際の手がかりに関連するものと考えられる。この点を明らかにするために,更に誤りの内容の質的分折が試みられ,手がかりの性質についていくつかの示唆が得られたが,ここでは十分な結論には達しなかった。このような手がかりの変化という観点から幼児の対象認知の特質を捉えるためにさらにいろいろな図形条件の下で図形差を問題とし誤りを内容分折的に追求してゆくことが必要とされる。
- 東京女子大学の論文
- 1963-10-20