最近の肉豚生産における経営技術的問題
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概要
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食肉消費の増大に支えられて拡大したわが国の豚肉生産は, 1971年の豚肉輸入自由化のもと再々の豚肉価格の暴落に遭遇しながら, 飼養戸数を激減させつつも経営規模を拡大しつつ飼養頭数を増大してきた.しかしながら, 豚肉消費の停滞と豚肉輸入の増大のために, 国内の豚肉生産枠の手直しが必要となり, 1980年から母豚頭数の管理による生産調整が開始された.そして, 豚肉価格の下落時の所得確保において, これまでのような単なる規模拡大化の経営行動は修正する必要に迫られ, ここに至って経営の質的向上にしか対応策を見出し得ない事態となった.本稿においては, 過去17年間の養豚経営診断結果を利用して, 養豚経営の繁殖過程と肥育過程について経営的観点からの技術的要点を採り上げて, それらの発展水準を点検した.その分析の結果については, 前述の通りである.ここでは, 繁殖過程と肥育過程を結合して, 問題点について総括してみる.肥育過程の問題点の指摘において, 肥育過程の責任において努力すべき技術改善事項は事故率だけであって, 飼料要求率・一日増体重・上物率の改善については, 繁殖過程からの良資質子豚の供給が先決条件であると述べた.事故率にしても, 健康な子豚の供給がなされれば, 肥育過程においての事故率は現在よりもかなり低下できることも事実である.結局, 肥育過程においての経営的観点からの技術的要点の問題点は, すべて繁殖過程においてそれらの基礎づくりがなされることが解決策となる.上物率の60%以上, 飼料要求率の3.2程度の実現はかなりな進歩と評価されるが, 他方一日増体重の600g以下の水準についての改善は, 上物率の低下に関連するので難しい問題である.これらの基礎づくりはすべて繁殖過程においてなされたものであって, 肥育過程においては小手先の修正程度しか出来ないものである.なお事故率の2%以上の水準は, 一部繁殖過程の責任でもあるが, 肥育過程としても1%以下への引き下げ努力は是非とも必要である.さて, 肥育過程の技術的要点は, 基本的にはすべて繁殖過程における改善努力に関わると結論したが, 繁殖過程におけるそれらの改善努力は, 一日増体重を除いてかなりの進歩がなされていると評価した.しかし, このようにかなりな良資質の子豚を供給している繁殖過程の生産性については, 満足すべき技術水準に至っていないことを明らかにした.繁殖過程における技術的要点は, 育成率および分娩回転である.育成率に関しては, 分娩・哺育・仕上の各段階において, 17年間にほとんど改善進歩の実績は皆無であり, 分娩頭数に対しての仕上頭数の育成率は80%, 哺乳開始頭数に対しての仕上頭数の育成率は85%を示している.別の個別一貫経営の場合において, それぞれ90%と95%の15年以上の連続的実績があり, これによると繁殖過程においては, それぞれ10%ずつの向上努力が必要である.このことによって, 1989年の実績では, 1産あたり子豚1.1頭, 母豚あたりに年間2.4頭の増産が可能である.17年間においての子豚生産性向上の実績は, 母豚の中型種から大型種への転換によって1産あたり約1頭の増加, 分娩回転は0.2回の向上の両効果によって, 母豚あたり年間4.0頭の生産性向上となった.繁殖過程における生産性向上において, 育成率向上の効果はおおきい.また, 分娩回転については, 1.9回転台から2.1回転台へと進展していて, さらに2.2回転台への努力が希望される.しかしながら, 2.1回転台に進展するについては, 母豚の短期廃用という手段を用いており, 個別養豚経営としては経済性からみて非効率的方法であることを指摘した.養豚経営をめぐる環境条件が厳しさを増しつつある現在において, 繁殖過程の生産性向上は, 養豚経営存立のための必須条件であり, その真価が問われるのはこれからである.
- 1991-03-15
著者
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