養豚経営に影響する立地要因の分析 : 鹿児島県種子島における
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概要
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鹿児島県本土において生産された配合飼料を運搬して肉豚生産を行ない, その肉豚をまた同じ県本土に運搬して販売する種子島養豚は, 経営的観点からその立地性に意味がない.養豚経営を立地させるとしても, 現在の年間8,000頭と推計される島内消費量を賄える範囲の規模である.これにしても, 経済的効率性を重視するならば, 県本土で生産した豚肉を運搬するほうが, 飼料を運搬して本島で肉豚生産するよりも合理的である.しかし種子島において, 養豚は早くから地場飼料を利用して行なわれており, さらに購入飼料にも依存しながらますますの規模拡大が行なわれてきた.そして, これらの養豚は主として子豚生産中心であって, 生産された子豚は子豚市場で買いたたかれながら経営されていた.このような悪条件下においても, 養豚経営がなされねばならなかったのは, 他に有利な商品作目が存在しなかったからである.ここに至って, 商社の豚小作が成立するのであるから, 取得される利益を繁殖経営の手に残す仕組みが考えられた.これが, 農協の経営する肉豚共同肥育事業である.1976年から79年にかけて, 本島の3市町農協にそれぞれ1,000頭規模の施設が完成した.種子島における養豚は, 共同肥育体制になっても, 県本土から飼料を運び肉豚を県本土に運ぶことの条件には何ら変更はない.子豚買いたたきの条件がなくなった代りに, 県本土の養豚経営に比較して, 購入肥育飼料の価格差, 県本土までの肉豚輸送費格差, 輸送中の肉豚体重の目減りと事故死のリスク負担は, 直接的に個別養豚経営の負担となった.これらの不利条件を克服するためには, 県本土の共同肥育施設以上に施設利用率を高めて償却費負担を軽減し, 事故率を低めて上物率を高くし, 飼料要求率を低めることへの努力にしかない.しかしながら, 同事業の成果の向上が遅々として進まぬなか, 利益性の向上のためとして施設側が県本土と同一豚品種への統一を強行したために, 同事業による県本土なみの子豚価格(仮払額と精算額の合計)の達成の希望は完全に絶たれ, 以前の子豚買いたたきのころの県本土子豚価格との格差額に逆戻りした.バークシヤー豚にかんしよや農場の残り物を給与しながらの養豚経営は, 同事業から脱退したために施設利用率の急速な低下とともに収益性も低下し, 1986年度から88年度にかけて事業活動を中止し, ここに共同肥育事業は発足後10年をもって破産した。また, 同事業の発足により子豚市場の取引は不振に陥り, 1986年以降は中止となっていた.結局, 同事業に参加していた繁殖経営の多くは, 子豚販路の喪失によって養豚を中止せざるを得なかった.ここに, 種子島における養豚は崩壊状態となった.共同肥育事業の展開の中途において脱退せしめられたバークシヤー豚経営は, 肉豚および子豚の販路を求めて産直ルートにつながった.折柄, 豚肉は供給過剰下にあったため商品差別化が進行しつつあり, とくに種子島のかんしよ給与による在来バークシヤー豚肉は, 関東地域においては「黒豚肉」として高い評価を受けた.その結果は, 大型雑種豚肉にたいしてバークシヤー豚肉は, 48%以上の価格差をつけて取引されている.さらには, 養豚飼料に地場生産のかんしよなどを利用するため, 立地制約条件の一つである飼料価格差を回避できてかなり有利な経営条件となっている.ただ, 肉豚販売における制約条件としての輸送費の格差, 生体重の目減り, 輸送事故の発生などは, これからも不利条件として残る.しかし, 現実に本島のバークシヤー豚経営は, 雇用労力のない夫婦労働量による母豚30頭の一貫経営でもって, 約400万円の所得を実現してきている.これにかんしよ飼料化所得も加算すると, 飼料自給化肉豚経営として517万円の所得となる.種子島養豚を10年以上にわたり観察して得られたものは, 農業経営の立地決定は, 考慮され得る有利条件と不利条件のバランスシートを作成し, さらに回避できる不利条件を探求して有利条件の比率を高める努力の上でなされるべきである, ということである.とくに離島における農業経営は, 県本土と同一基準の経営感覚でもってしては成り立たないことを強調せねばならない.
- 鹿児島大学の論文
- 1990-03-15
著者
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