稲種子の穂発芽に関する研究
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概要
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稲種子の穂発芽に関して, 1958〜61年に行なつた研究結果を要約すれば次の通りである.I日本稲543品種及び日本内で採種保存されている外国稲339品種の, 出穂20日後からの休眠性程度の品種間差異を調査した.1)発芽を開始した時の出穂後の日数を基準とした最短休眠度, 及び発芽率50%に達した時の出穂後の日数を基準とした平均休眠度との2つの標示法を用いて全品種の休眠性程度度を附表2に示した.且つ日本稲は種類別に, 外国稲は地域別にそれぞれの休眠性程度に属する品種数とその比率を第1〜4表に掲げた.2)日本稲, 外国稲を通じて殆んど大部分の品種が出穂25日後には発芽を開始した.また大略半数の品種が出穂30日後に発芽率50%以上に達した.3)地域別に休眠性が低い順に記すと, 朝鮮稲, 中南支稲, 台湾稲, 満州北支稲, 日本稲, ロシヤ稲, ジャワ稲の順で, ロシヤ稲は, 休眠性に於て最も巾広い変異を示した.4)日本稲及び朝鮮稲の糯は粳に比して休眠性の低い品種が多かつた.5)出穂期の早晩と休眠性程度との間にロシヤ稲では相関がみられたが, 日本水稲では認められなかつた.6)品種の休眠性程度の高低と低温発芽性の大小との間に負の相関があるように思われた.7)日本型の稲は印度型の稲に比して基本的には休眠性の低い性質が基調となつていて, 各地に伝播後その高い品種を分化したものと考察した.8)頴の着色した品種は着色しないものより割合に休眠性が高かつた.9)日本稲にも休眠性の相当に高い品種も少数存在するので, 今後の交雑による穂発芽難の品種育成は割合容易であること, また母本として有望な日本型の外国稲が存在することを指摘した.II稲種子の休眠性の機構に関し, 2,3の研究を行なつた.1)脱頴種子(玄米)の発芽に於いて, 非休眠種子は殆んど酸素を必要としないのに反し, 休眠種子では酸素を必要とする.2)種子の休眠性は, 主として頴, 果皮及び種皮の酸素透過に対する阻害に基因し, それぞれの阻害力は種子の齢(受精後の日数)や品種によつて異なる.3)登熟中の種子の頴が除去されても, 果皮や種皮の酸素透過性はあまり変化しなかつた.4)未熟種子の玄米は0.5〜2.0%のエタノールによつて発芽が促進された.5)籾の休眠種子及び非休眠種子中のエーテル及び水可溶の発芽抑制物質並びに促進物質を, ベーパークロマトグラフィ法と小麦鞘葉試験法を用いて検索した結果, 何れの種子も両物質を含み, 且つその量が非休眠種子の方にやや多く, 休眠性は抑制物質の多少には直接的に支配されていないと考えられた.III休眠性の高い品種と低い品種の相反交雑を行なつた結果, 交配種子の休眠性は母本の休眠性の高低に支配され, 母性遺伝をなすことが認められた.IVマレイン酸ヒドラジッドの葉面撒布による穂発芽抑制に対する効果に関し試験を行なつた.1)MH-30の出穂15日後2%液の撒布では穂発芽を防止することは不可能であるが, 発芽後の芽生の伸長を著しく抑制し, 胚乳の軟化の程度を減じて, 穂発芽による減収を少なくするのには役立つ.2)小麦種子に比して, 稲種子の発芽が低濃度のMHの葉面撒布によつて, 抑制され難い理由は, 稲種子の無気呼吸により発芽しうる特性に基づくものと思われる.
- 鹿児島大学の論文
- 1963-03-25