アフマド・アミーンの人生論
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概要
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日本人の人生を支配する観念は「恥」であり,西欧のそれは「原罪」であるとルース・ベネディクトが分析して以来久しいが,様々の議論にもかかわらず,この観点は間違いなく日本人理解を進めたと思われる。また日本人は人生を論ずることを好み,儒教的な「道」が人生論の中核となっているとも言われた。ある民族がどの様な人生観を持っているのかを見ることは,その民族を理解する良い方途となると考えられるが,アラブ人の場合は,この点どの様な見方を持っているのであろうか。アラブ人は,人生論自体を議論することは多くないが,ここでは現代エジプトの碩学の一人であるアフマド・アミーンの人生論をまとめ紹介したい。アミーンの基礎教養はイスラム諸学であるとしても,西欧近代文化の合理性や実証性を十分修得した知識人として,現代アラブ人の人生論探訪の対象としては,好例を提供していると思われる。アミーンの人生論の要点は,次の通りに纏められよう。「我々は人生の特性を知るのみで,その本質は把捉し難いので,人生につき方法論はあってもそれは何か,何故かといった疑問には答えられない。またそれは,遺伝と環境という二大要因により規定されているが,これも神の定めた法に基いており,人生の物質・精神両面共不滅であり,姿を変えて再生される。人間を形成するのは肉体・知性それに心-感性であり霊感-の三要素だが,感性豊かに心の嗜好を高めることに其の幸せが見出される。最高の目標は偉大な自然-文明の害から逃れさせ宗教心を育む-にも感取される絶対美に対する感動であり,それへの依拠・服従である。そして何人にも賦与されている宗教心を育み高めることにより,人生の意味と真の安寧が与えられる。」
- 日本中東学会の論文
- 1995-03-31