異なる標高における亜高山性ノガリヤス属植物の生育反応
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概要
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本研究は,日本の亜高山帯草原及び亜寒帯草原における長草型草原において,主要草種となるノガリヤス属植物の生育適温域を明らかにし,その分布の下限を規制する要因を考察することを目的として行った。実験材料は,中央高地の亜高山帯草原から採取したノガリヤス属のヒゲノガリヤス・ヒメノガリヤス・イワノガリヤスを用いた。これらを日影平試験地(標高1,342m地点)で育成し,1993年から1995年の3年間にわたって,標高の異なる4地点にポットを用い移植栽培し実験に供した。その結果,(1)この3草種の温度条件に対する生育反応は類似したパターンを示した。各草種とも,中標高地点(600m及び1,342m)での成長量は最も大きく,草丈及び分げつ数ともに大きかった。また,出穂数も多く,生理的にはこの範囲に適温域があることが判った。(2)高標高地(1,712m)では,栄養成長及び生殖成長ともに正常であったが,成育期間が短いため,成長量は最も低かった。(3)低標高地(14m)では,春から初夏までの比較的低温期間は,旺盛な栄養成長をするが,その後の高温によって,光合成能力が低下し,地上部現存量を著しく減じ,生育が抑えられた。また,越冬期間の温度が高いこととその後の急激な温度の上昇によって,生殖成長も抑えられることが判った。霧ヶ峰草原におけるノガリヤス属のこの3草種の分布は,標高1,650m以上の高標高地に限られている。しかし,本研究の移植実験の結果は,この3草種はいずれも生育が抑制されたり枯死したりする限界高温に至るまでは,生育地である標高1,650m以上(年平均気温約4.7℃以下)よりも高温条件で成長量が大きく,生育適温域は標高1,342m〜600m(実験期間中年平均気温6.8〜10.4℃)程度まで下がることが明らかになった。これらのことから,霧ヶ峰草原における亜高山性ノガリヤス属植物の分布は環境条件への生理的反応だけではないことが示唆された。
- 日本草地学会の論文
- 1998-01-31
著者
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山田 恭子
岐阜大学流域環境科学研究センター(現)筑波大学生物科学系
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西村 格
日本自然保護協会
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莫 文紅
筑波大学生物科学系
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曽我 有紀子
岐阜大学流域環境科学研究センター(現)筑波大学生物科学系
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莫 文紅
岐阜大学・流域環境研究センター
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西村 格
岐阜大学・流域環境研究センター
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山田 恭子
岐阜大学・流域環境研究センター
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曽我 友紀子
岐阜大学・流域環境研究センター
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曽我 友紀子
向陽台高等学校
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