アルジェリア国・ムザップ峡谷における都市化過程の特徴に関する分析
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概要
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1.研究の背景と目的ムザップ峡谷は、アルジェリアの首都アルジェから南に600km、サハラ砂漠北端に位置する人口12万人のオアシス都市である。丘を覆うコンパクトな都市形態と頂上にある一本の尖塔が特徴的な旧市街地クスール(Ksour)で知られるこの都市は、1982年以来UNESCOの世界遺産に指定されている。ムザップ峡谷では、この半世紀間に人口流入による急速な都市化が進み、オアシスを構成する貴重な農業環境であるダッツ樹林が減少するというスプロール問題などが生じている。これらの問題を理解するうえで、この都市が辿ってきた都市化過程の特徴を整理しておくことが不可欠である。その際、都市化過程を、物的・空間的な側面のみならず、その背後にある社会的・経済的な側面から捉えることが重要である。本研究では、二つの作業を通じて、ムザップ峡谷における都市化過程の特徴を明らかにする。第一の作業では、現地調査の際に収集した主としてフランス語による研究文献ならびに事実調査書から、ムザップ峡谷における地理的・歴史的概要を整理するとともに、市街化問題をめぐる因果図式の構成を試みる。第二の作業では、航空写真をデジタイズしたのち、GISを用いて、1960年代以降における土地利用変化を分析するとともに、市街化過程における空間的特徴を整理する。2.文献調査にみるムザップ峡谷の都市化過程の特徴2節では、1950年代の地誌2冊、ならびに公的機関による事実報告書7編(統計資料2編を含む)の検討を行い、ムザップ峡谷における都市化過程の特徴を探った。この作業より得た要約を以下に示す。2.1ムザツプ峡谷の地理的概観ムザップ峡谷は、岩質台地にオード・ムザップと呼ばれる枯れ河(ワジ)が刻み込まれた地域である。この地域は典型的な砂漠気候であるが、数年に一度ワジが洪水を起こすことでも知られる。11世紀以来、このワジ沿いの岩質の丘に、ムザップ族は5つのクスールを築いた。さらに、各クスールに対して各一ヶ所、ふもとの帯水層上の砂地に拓かれたのがダッツ農地である。ダッツとは多年生の高木で、その実が食用となるばかりでなく、樹下の微気候が生鮮野菜など住民生活に資する耕作環境を形成する。この微気候がオアシスと呼ばれる。また、水資源供給の伝統的システムとして、ムザップ族はワジに堰を設け、洪水時には地上から地下20mに位置する帯水層に水を蓄えた。2.2ムザップ峡谷の都市化過程の歴史的特徴ムザップ峡谷の歴史は、3つの期間に区分することができる。伝統社会期(1014-1850):ムザップ族がクスールを建立した理由は防衛であり、ムザップ峡谷における開発・維持管理は、長老組織が定める法オルフに従った。宗教・社会・経済問題のみならず、土地利用や水資源管理といった環境問題を扱う上でオルフは社会規範として機能していた。また、この時期、ムザップ族にはダッツ農地内に夏季住居を設けて避暑を行なう生活習慣があった。これらの水資源制約・社会規範・生活習慣は、伝統社会期におけるこの都市のサステイナビリティを支えていたと考えられる。この時期を特徴づけるのは自給自足性であると言える。植民地期(1850-1962):フランス植民地局はこの地に交通網整備と工業開発をもたらした。これを支える水資源は、近代技術により拡大した。植民地局による遊牧民の定住化政策をきっかけとして、ムザップ峡谷の人口増加が始まる。これはサハラ砂漠の油田発見をきっかけとする化学工業の労働需要増加によって加速化された。さらにこの時期、植民地局は遊牧民によるダッツ農地の開墾策を推し進めた。これらは、社会規範としてのオルフの希薄化をもたらした。この時期を特徴づけるのは近代化であると言える。国家独立期(1962-):おもに周辺地域からの流入により、人口は半世紀弱の間に5倍に増加した。アルジェリア政府もまたガルダイヤの地方拠点化を継続した結果、増加人口はとくにガルダイヤ自治体に集中した。これに伴って現在、スプロール問題をはじめ、種々の問題が顕在化している。この時期を特徴づけるのは、市街化であると言える。2.3ムザップ峡谷のスプロール問題をめぐる因果構造の整理2節のまとめとして、スプロール問題の要因構造を因果図式として構成した。得られた因果図式は、この間題の主因が、近代化を通じての人口流入による市街化圧力といった人口経済的な要因であるが、同時に、近代化に伴う社会変動や文化変容、オアシス都市の地理条件や植民地化の歴史等の固有要因、さらに独立期以降は後述する政策的要因が主因に影響していることを示している。3.国家独立期以降における都市化過程の分析国家独立期以降については、ムザップ峡谷の航空写真が現存する。3節では、これら一次資料をデジタイズして1968年、1982年、1991年、1997年の土地利用データを作成してGIS上で表示するとともに、その面積測定を通じて都市化過程の分析を行なった。主として構成用途とその成立年代により特徴づけられる4種類の土地利用カテゴリイは、旧市街地(OT)、新市街地(BU)、進行市街地(MX)、オアシス農地(OF)である。OTは伝統的低層住居;建ぺい率70%〜85%;緑被率5%以下、BUは近代的建造物;建ぺい率40%〜70%;緑被率20%〜5%、MXはダッツ農地と近代的建造物の混在;建ぺい率20%〜40%;緑被率20%〜80%、OFは夏季住居を含む農地;建ぺい率20%以下;緑被率80%以上である。また、記述資料にもとづき、土地保留地政策通用地域の一部をGIS上に表示して分析を試みた。4.結論まず、文献調査からの都市化過程の知見を要約する。(1)近代化の進展による人口流入は、国を問わず都市化に共通する現象であるが、オアシス都市や峡谷の存在といった地理上の特徴やそこで形成された伝統社会、さらには植民地化といった歴史の固有性が、ムザップ峡谷の都市化過程における特徴を規定している。(2)これらに加えて現代では、政策的要因を無視することができない。つぎに、データ分析からの都市化過程の知見を要約する。(1)この期間、市域は810haから879haに8.5%拡大した。(2)とくに68〜82年にスプロールが急速に進行し、オアシス農地は4割減少した。(3) 82年以降、UNESCOならびに自治体の対策が功を奏してオアシス農地の減少は食い止められている。(4)進行市街地は増減しているが、新市街地はつねに増加しており、スプロールによる緑被量減少の傾向が一貫して見られる。(5) 68〜82年の減少について、政府による土地保留地政策の影響を否定できない。居住環境・生産環境の厳しいオアシス都市であるムザップ峡谷が直面する諸問題は、地球環境問題と同型の構造を有しており、ゆえに、サステイナビリティの観点の導入を必要としていると考えられる。なお、ムザップ峡谷の市街化過程には、その他、高度差・水源ほかの地形要因が大きく関与するものと考えられるため、そのための継続的な分析作業を今後の課題としたい。
- 2005-10-30
著者
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