畑作農業の意義と農法変革の契機 : 学説整理を中心に
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概要
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日本農業の歴史的発展は,単に稲作独往的であったのではない.水稲作の発展は,常に乾田化・裏作化という畑的条件化を伴っていた.それゆえ,「中核的」な稲作の生産力維持的契機と,「周辺的」な畑作の生産力発展的契機との相互規定的な統合のもとに,日本農法発展の論理がある.それゆえ,稲作農法,畑作農法と別個に捉えるのではなく,日本農法として統合的に捉えるべきである.また農業経営の発展は,耕種部門と畜産部門という相矛盾し合う部門を,統合することによって行われたことを,西欧における農業近代化の過程は示している.経営内給的な地力再生産構造と,年間を通じてバランスのとれた労働力利用構造は,かかる矛盾を経過する中で実現させたものであり,それは農業経営を本格的に形成させてゆく過程でもあった.日本の畑作農業は,かような矛盾過程を経過しなかった.そのことは,高度経済成長以後の農法を,地力再生産を内給化させる方向とは逆に,もっぱら化学肥料等の外給物に置き換える方向に導き,連作・単作化を支える条件にもなったのである.その到達点が,土地利用から切り離されてゆく「施設型」園芸作であった.またバランスのとれた労働力利用構造を確立せずして,施設型へ特化したことにより,過重労働・健康破壊を引き起こすにいたっている.まさに,「人も病み,土地も病む」事態の発生を観るのである.そのような中で,日本における合理的農業を考えるなら,地域内給的地力再生産構造を内包した田畑輪換を含む,有畜輪栽型複合経営が措定される.だがその際に,過重労働を引き起こさないためにも,労働の季節的偏差を解消し,年間を通じて平準的な就業を可能とする労働力利用のあり方を視野にいれた経営を考えることが,必要である.かような合理的農業の形成には,私的土地利用の枠をこえた集団的な土地利用を保証する管理協定・秩序の形成が,必要とされる.それは同時に,戦後農地改革によって創設された,自作農的土地所有に基づく私的土地利用の限界を克服する,新たな土地利用のあり方の模索でもある.それを可能にする契機として,農民の土地所有のもつ重層的構造に着目した.すなわちそれは,一面では労働を基盤とした私的所有であり,同時に部落の公的管理下におくという,社会的性格を帯びた所有であった,ということである.かかる土地所有のもつ重層的構造が,集団的土地利用秩序形成にとっての契機になると考えた.
- 千葉大学の論文
- 1993-03-25
著者
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