大規模かんがいによる畑地開発と農業経営の対応 : 福井県坂井北部丘陵地域の事例
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概要
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本稿では,後進の畑地かんがい事業が,受益地域における農業経営の展開に与える影響を明らかにするために,福井県坂井北部丘陵地域を事例として取り上げ,とくに畑地造成とかんがい用水供給に対応した農業経営の動きを分析した.これまでの分析結果は,要約すると下記の如くである.1)大規模かんがいによる畑の造成は,多数の農家の所有耕地を増加したが,その利用権は,流動化推進によって安い借地料で少数の酪農,タバコ作経営に集積され,これらの経営耕地規模を著しく拡大した.2)しかし畑地かんがい事業は,その後進性と劣悪な立地のために,先進畑地かんがい地域よりもはるかに多額の投資を伴い,用水費用の負担を高めている.3)農業経営の畑地かんがい用水使用は,そ菜作付率の増加によって促進され,2種兼化によって阻害される傾向があり,前者の効果は,後者の効果よりもはるかに大きい.したがって用水使用志向は,経営耕地規模階層間,経営組織間で違いがあり,中規模層の野菜作,及び稲作経営では用水使用農家が比較的多いが,大規模層の酪農,タバコ作経営,及び小規模層の2種兼稲作経営では極めて少ない.そのために用水の使用水量は,計画量を大きく下回っている.4)受益畑における多額の用水費用負担は,借地料水準を引き上げ,その流動化を阻害する作用を果たす.したがって受益畑は,用水効果が不変にとどまる限り,小規模2種兼農家に滞留し,投資額に見合った収益を実現できないままに,非効率的利用を続ける可能性が大きい.5)用水地域の農業を長期的に発展させるためには,経営条件に適合した技術革新の遂行が不可欠である.すなわち大規模層の酪農,タバコ作経営は,地代形成力を高めるために用水利用による増収技術を,中規模層の野菜,稲作経営は,規模拡大を計るために労働節約技術を,また所得形成力を高めるために冬期用水利用による施設作物栽培技術を,それぞれ開発する必要がある.さらに2種兼農家層を含めた受益農家の畑利用効率化のためには,畑作物の育苗施設,土壌消毒機,大型防除機等の共同利用組織の確立が必要である.本稿は,昭和55〜57年度文部省科学研究費(総合研究A)「水資源開発が農山村の自然環境および地域社会に及ぼす諸影響に関する研究」(研究代表者 山村勝郎)の研究成果の一部を取りまとめたものである.
- 千葉大学の論文
- 1984-03-30
著者
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