ラット海馬でのノルアドレナリン刺激性細胞内カルシウム動員と母子分離の影響
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概要
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近年,乳幼児期の不良な母子関係は思春期,成熟期の海馬において神経科学的,形態学的,機能的変化を引き起こすことが報告されている。本研究の目的は,1)ラット海馬でのノルアドレナリン(NA)刺激性細胞内カルシウム(Ca^<2+>)濃度変化とそのメカニズムの検討,2)新生児期に母子分離ストレスを与えたラットの海馬におけるNA刺激性細胞内Ca^<2+>動員及びα1-アドレナリン受容体発現の変化に対する検討,である。ラットは約7週齢のSprague-Dawleyラットを用いた。細胞内Ca^<2+>測定はCa^<2+>感受性色素のfura-2AMを用い,α1-アドレナリン受容体の発現は免疫組織染色法にて検討した。前者に関する検討では歯状回顆粒細胞層とCA3錐体細胞層において,NA濃度依存性(1μM〜10mM)に細胞内Ca^<2+>濃度上昇がみられ,その機序にはα2-,β-アドレナリン受容体の関与もあったが,α1-アドレナリン受容体が最も関与していた。後者に関する検討では歯状回顆粒細胞層とCA3錐体細胞層において母子分離によりNA刺激性の細胞内Ca^<2+>濃度上昇が減弱することを見出したが,同部位においてα1-アドレナリン受容体の3つのサブタイプの発現は変化しなかった。さらに離乳後に良好な環境で飼育することで,母子分離によるNA刺激性の細胞内Ca^<2+>濃度上昇の減弱が回復するか否かを検討したところ,歯状回顆粒細胞層では回復しなかったがCA3錐体細胞層では回復した。本研究の結果は母子分離や良好な飼育環境といった生後の生育環境によって,NA刺激性の細胞内Ca^<2+>動員が変化し,海馬機能が修飾される可能性を示唆している。
- 広島大学の論文
- 2003-12-28