我が国の製造部門における労働生産性の地域間格差に関する要因分析 : バブル崩壊から90年代後半の動向について
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概要
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現在、日本経済は一般物価水準が低下を続けるデフレの状態にある。このような中で、(1) バブル発生とその後のリストラが、本社等の間接部門を含まない製造部門の生産性に与えた地域別影響と (2) デフレの進行と労働生産性の地域間格差への影響について把握する事を目的とした。そのため「工業統計表」のデータを利用し、14地域区分に従った労働生産性の諸要因の地域間格差について1995年〜2000年の変動係数の水準と推移について検証を行った。観測事実は以下の通りである。(1) 製造業の従業員1人当り名目賃金の地域間格差は1995年以降縮小傾向にある。(2) しかし従業員1人当り賃金に影響を与える労働生産性について見ると、その地域間格差は縮小したものの依然として大きい水準にある。(3) 労働生産性について付加価値分析の手法を用いた要因分解を行うと、付加価値率の地域間格差は小さく、資本・労働比率の地域間格差は1980年かち一貫して縮小基調にあり、2000年には半減している。(4) 有形固定資産回転率の地域間格差は、付加価値率よりも高く、1995年以降、徐々に高まりつつある。したがって1995年以降に労働生産性の地域間格差が縮小しつつも高い水準にあるのは、有形固定資産回転率の地域間格差にあると考えられる。従業員規模別に見ると、従業員規模の大きい製造部門において、労働生産性とその要因の地域間格差が大きい事が明らかになった。業種別では「加工組立型」と「素材型」の両方で労働生産性の地域間格差は縮小しているが、「素材型」の地域間格差の水準は依然として大きい。「素材型」の労働生産性の地域間格差が大きいのは、「加工組立型」に比較した付加価値率と資本・労働比率の地域間格差が大きいためである事が明らかになった。注目されることは、我が国の製造部門全体では、付加価値率の値そのものは1985年の水準を上回っていることである。また、資本・労働比率の低下と資本・労働比率の地域間格差の縮小が同時進行している事である。これは、資本効率を上げるため各地域で「素材型」業種を中心にリストラによる設備廃棄が進行したために生じたものと考えられる。以上の事から、日本の製造部門においては過剰設備の存在が資本生産性を押し下げ、労働分配率の上昇を防ぐ目的で名目賃金の上昇が抑えられ、結果として1人当たり名目賃金の格差を縮小させている可能性が大きいと考えられる。
- 2004-03-15
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