ディケンズの女性キャラクター : Great Expectations を中心に
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概要
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ディケンズの描く女性はヴィクトリア朝の性をめぐるイデオロギーを強く反映しているとしばしば言われる。たとえば、彼の小説には、当時の社会で理想とされた女性像-清らかで優しく夫を支える「家庭の天使」ともいうべき女性キャラクター-が多く登場する。また、ディケンズの世界ではこうした「家庭の天使」とそのイメージから外れたいわゆる「逸脱した」女との間に明白な境界線がある。そして前者は「善」、後者は「悪」という価値判断が明確に小説の中に描きこまれているのである。こうしたことから、これまで多くの批評家がディケンズの女性キャラクターを一面的、画一的だと批判し、この作家の女性に対する認識の甘さを指摘してきた。しかし、こうしたディケンズの特長は特に初期の作品に顕著であり、中期、後期の作品になると微妙に様相が異なってくる。それは一言で言えば、彼の「逸脱した」女性への関心が高まってきたということであろう。前期の作品では、こうした「規格外」の女たちは、コミカルな効果或いは風刺の目的のために使われる場合が殆どであったが、1850年代あたりからはよりシリアスに扱われるようになる。本稿では特に後期の代表作と言われる Great Expectations を取り上げ、3人の「規格外」の女たちについて考察した。すなわち、押しつけられた「母性」に縛られるミセス・ジョー、男に棄てられ「家庭の天使」になりそこねたミス・ハビシャム、ハビシャムの男性への復讐の道具として使われるエステラである。3人の女は社会の規範に反し、或いは挑戦したために手酷い報いを受けるが、ディケンズは彼女たちの言動の背後に潜む問題に鋭く目を向けている。また、エステラについては苦しみを超えて成長した姿が示唆されていて特に興味深い。彼女は続く Our Mutual Friend のベラと同様、ディケンズの数少ない「成長するヒロイン」である。エステラやベラの内面の葛藤や道徳的覚醒の描写は、晩年のディケンズの女性に対する洞察の深まりを示すものと言えるだろう。
- 2004-03-15
著者
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