アメリカの連棟式都市型住居の対ポロジー研究(その1) : 平面形式の分析について

概要

論文の詳細を見る
1.はじめに 18世紀末期から20世紀初頭にかけて米国の東部の大都市で大量に建設された連棟式都市型住居(ロウハウス)は、ヨーロッパの先例を参照しつつ、各都市の状況に応じ、独自な発展および変形した。本研究では、米国東部の三大港湾都市、フィラデルフィア、ボストン、ニューヨークにおけるロウハウスを採り上げ、それぞれの都市の成立過程と住居の平面形式の発展過程およびその背景を調査することにより、近代都市史における都市型住居の位置づけを行い、現代の都市住居への応用可能性を探る。本論の目的は、(1)18〜20世紀にかけて、各都市におけるロウハウスの平面形式の変形過程を追跡し概観する。(2)各地における特殊な環境条件を把握し平面形式を変化させた諸要因について考察する。(3)三都市における変形過程を比較研究し、ロウハウスという建物形式が有する建築的自律性と単軌な対応性を抽出することである。2.歴史的背景 (1)都市化の過程と街区構造米国の都市化の過程は、第一期(〜1820年)、第二期(1820〜1870年)、第三期(1870年〜)の三期に分けられるが、これらの各時期に当時の主要な都市である三都市は異なった発展と人口集中を行った。フィラデルフィアは、ウィリアム・ペンにより「聖なる実験」として計画され、基本的にクェーカー教徒による宗教都市として成長した。18世紀後半の産業は基本的には農業を主体としたが、その後、米国で最も繁栄した都市として着実に成長を続けた。1687年にペンは大区画に農家を一軒づつ建てる構想を特っていたが、小街路による術区の分割政策が取られ、上流階層と下流階層の住民が同一の街区内に居住するという特徴的な構造を示した。ボストンはジョン・ウィンスロップの指導のもとに清教徒のコミュニティーとして計画された。18世紀初期に商業および工業都市として全盛を極め、米国中有数の都市として成長する。全体的には宗教的な制約が強く、社会的には比較的安定した成長をした。ショウマット半島とそれに付随した埋立地の確保という形で都市成長は進行し、有名な住宅地ビーコンビルはロンドンをモデルとして計画された。その後半島の南側、北側の埋立てという形で新住宅地が開発された。ニューヨークは、オランダ人達によりもともと要塞都市として計画され、その後は商業都市として成長する。地理的利点もあり、前例のない程の新興中産階層を産み出し、その後一大金融都市として発展した。宗教的抑制が弱く大量の移民を受け入れたことが都市成長を助長した。特にマンハッタン島の街路パターンの変化によって都市成長は特徴づけられ、南端地域の中世的街路、その北部の大雑把なグリッド、1811年に施行された全島の均一グリッドなどにより、開発は南部から北部へ進行した。3.ロウハウスの平面形式の変化フィラデルフィアの街区には裏路地が存在したため、サービスは裏面から行われ、平面は基本的に水平的に発展した。特に三期を通じ、敷地奥のL状部分にキッチン、中間にダイニングルームを配し、道路に面したパーラーは徐々に公共的性格を強めていった。これらは全てPD-Kの変形と見られる。公私空間のヒエラルキーは時代の変化に応じて多順化されたが、全体に控えめでダイナミックな変形を見せていない。ボストンの街区にも必ず裏路地が備わっていたために、前面に階段を設ける必要はなかった。全ての平面構成が垂直的に組織されている点が特徴で、特にキッチンは三期を通じて地下に、メインパーラーはイタリアのピアノノービレの様に二層目に配置された。第二期以降の住宅は全てL/P/-D/Kの変形と見ることが出来る。第三期には一二層を繋ぐ階段とは別のサービス階段が配される住宅も登場し、公私空間のヒエラルキーが明確に意識された。また、部屋名の多様さは他都市にない特徴で住宅内で様々な社会行為が行われていたことが分かる。一般に派手さはないが気品を漂わせていた。ニューヨークの街区では、裏路地が最初から計画に盛り込まれなかった為、必ず前面に「ダッチ・ストウープ」と呼ばれる階段を配置し、サービス入口を半地下部に設けた。これがニューヨークの町並みの特徴を形成した。平面構成の特徴は、二階に二室連続のパーラーを設けた点で、当時、社交が主として住宅を舞台に行われていたことを示している。第一二期はPP/DKタイプを原型として発展したが、第三期にはシングルパーラータイプも登場し、変形が拡大した。4.まとめ本研究では、都市化が進行する過程において、ロウハウスの内部空間には共通に、空間用途の多様化、公私のヒエラルキーの増大が見られ、敷地の制限、自然光と通風、設備機能の向上、住宅内の社会的活動などがロウハウスの平面形式の変形に重層的に作用することが認められた。ロウハウスが有する自律性としては、入口の形式、サービス方法、階段位置、一階の公共性が挙げられ、柔軟な対応性の条件としては、敷地の幅、独立性のある階段室、高度な設備機能などが挙げられる。ロウハウスが21世紀の現代社会においても、アパートやコンドミニアムとして保存・再生されながら使われている要因の一部はこれらの特徴にあると考えられる。今後の持続可能な都市環境の計画に与える示唆は大きい。
2003-01-30

アメリカの連棟式都市型住居の対ポロジー研究(その1) : 平面形式の分析について

スポンサーリンク

概要

著者

関連論文

スポンサーリンク