福島縣相馬市松川浦の生態学的並に堆積学的研究 (總合研究 その二)
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概要
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昭和28, 29年の2ケ年にわたつた松川浦総合研究を閉ずるにあたり, われわれの研究結果を最後に要約してみよう。松川浦の最近の微地形変化発達史で明かになったように, 現在は潟内の島として残されている中洲は, 他の島々と異って, かつては太平洋に直接面する sand bar の段階があつたということである。このことは, 現在の松川浦を太平洋と境している sand bar である大洲の微地形, すなわち大洲を構成する砂層の配列, 微小な砂嶺軸の方向から判断されたことであるが, 松川浦の環境を考察するにあたつては, 最も重要な要素となる。そしてこのことは, 底質の quartile measurement から判断された岩ノ子から東方, 中洲・大洲にのびる侵蝕地帯 (異常配列地帯) と関連して, 今日の松川浦の生態を説明する場合の最も重要な要因ともなる。これまで多くの貝類・有孔虫類にかんする生態学的研究報告では, 海底から採集された資料を一応全部処理して, 個々のものに同一の価値を与えて, 結論を導くというものであつた。それが最近では, 生殻と死殻とを区別して, 生殻分布から生態を判断するという傾向になつている。これは当然のことである。しからば, 何故に死殻がそのように多数混在するのであろうか。また松川浦で明かになつたように, 貝類の死殻分布と生殻分布とが同一の地域で異つた頻度をもつて示されているのはどうした理由にもとずくのであろうか。最近の海外のこの種の報告を見ても, そのような問題をはつきり説明しているものは極めて少い。われわれの総合研究が, 地形・地質・堆積・有孔虫類・貝類・カニ類・底質環境という広範囲の分野から行われたのは, そのような問題を幾分でも明かにしようとしたためである。現在の環境はある過去からの変化発展の段階を示しているのに過ぎない。採集された資料中に, いろいろの異つた段階を示すもの-いゝかえれば, 現在と異つた環境の特性を示すものが, 残存していることは当然である。そのような現象が各方面の資料で明かにされた以上, その現象を引きおこした理由を明かにしなくてはならない。具体的結果から云うと, 堆積物の異常配列 (三位報告参照)・貝類の死殻分布の異常性 (小高等報告参照)・外洋性有孔虫類の混入 (高柳報告参照) という現象が, 微地形発達史の段階と比較すると全く合理的に説明される。すなわち, 岩ノ子附近の堆積物として採集されたものは, かつての澪であり, 貝類の死殻のうちには, かつて外洋に面していた時代の海浜に生息したものが, 地下に埋没し, それらが再び今日海底に洗い出されたものも含まれるという可能性が強調されるわけである。これらのことに対しては, 中洲附近のボーリングが望まれるわけであるが, 今回の研究では手堀下げによって, 地下に数枚の海浜性貝殻層の存在を確めたのである。またそのような数枚の貝殻層の層序発達を追跡して, 微地形から予想された中洲から大洲に至る発達段階の方向とよく一致していることも確められたのである。そして, このような過去の環境変化を引きおこした根本の原因は, 松川浦周辺の地質調査から得られた最近の運動変化史に求められるのである。そこで, わたくしたちは, 松川浦のような陸地に接近した海性生物の生態を研究するに当つては, 結局, 大きな意味での地質学的立場から進めなくてはならないという確信をもつに至つたのである。このことは, 化石資料を取扱う古生態学においても同様であって, 地質学的立場ということを強調したいのである。なお, 松川浦では, 春から夏にかけての大干潮時には, その大半が露出するために, 各種生物の生痕を観察することができた。それらは, 巻末の写真を参照されたい。
- 東北大学の論文
- 1955-11-10
著者
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