微生物による油脂生産に関する研究 : I 油脂酵母による生産
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概要
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従来理論的に試みられたことのなかった油脂酵母の連続培養による油脂生産を,本研究において初めて採り上げ,連続培養の理論からする予想に反して,遙に高能率で培養を行い得ることを明かにした。即ち,油脂細胞の連続培養においては,バッチ培養において得られる増殖速度ではなくて,特に油脂含量の多い細胞においては,バッチ培養における増殖速度より遙かに大きい増殖速度が得られ,この増殖速度に従って連続培養が成立する。従ってバッチ培養から推測されるよりも,実際には遙かに能率的に連続培養を行い得るのである。その原因は,連続培養においては,バッチ培養と異って,窒素欠乏菌体が,その窒素欠乏度を保ちつつも,常に微量の窒素源を連続的に供給され,吸収している状態にあるため,細胞の活性が,バッチ培養のそれと比較して非常に高いことにある。その油脂生産能率は,バッチ培養のそれの約2倍である。併し,細胞の活性が異っても,RNA含量は,両培養の細胞間にさしたる差は見られない。微生物による油脂生産の特色の一つは,培養条件の変化に応じて,組成の異る油脂を得られることにあるが,その培養条件の中でも,特に重要な温度に関して実験を行い,次の結果が得られた。即ち,まずRhodotorula gracilisは,比較的高温において,その油脂含量と,脂肪酸含量を変化する。温度が高い程,油脂含量は低く,その脂肪酸含量は高い。次に脂肪酸組成も温度と共に変化し,培養温度が低い程,幾分リノール酸含量が減じ,リノレン酸は顕著に増加する。オレイン酸は多少増加の傾向を示し,パルミチン酸・ステアリン酸等飽和脂肪酸含量には殆んど変化がない。脂肪酸組成に対しては,特に油脂蓄積期の培養温度の影響が大きい。しかし油脂蓄積期以前の培養温度も多少の影響を後まで残す。これ等のことは,油脂蓄積期には,外部からの窒素源吸収が全くないとはいい乍ら,細胞内部での窒素化合物の再編成が起って,新しい培養温度に対応することによるものと思われる。油脂蓄積期に窒素化合物の再合成の起る事実は,正常細胞と油脂細胞との間に,窒素化合物に差が生ずる事によっても覗うことが出来る。両種の細胞の間では,RNAの塩基組成に変化があり,またアミノ酸の種類及び量にも多少の変化が起る。
- 明治大学の論文