遺体が血を流して殺害者を告発した話(奥田俊介先生、高木道信先生、高橋正先生退職記念号)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
殺害者がいると死体は血を流す,血を流して殺害者を告発することは中世人にとってはあり得べきことであった。古くから受け継がれた伝承,信仰であると同時に事実の認識であった。中世の歴史家はたびたびその事実を報告している。おそらく死者にも意思が存在するという信仰の名残りであろう。とりわけ非業の死をとげた者ほど強い意思,うらみが残った。このモチーフを文芸作品の中ではじめて用いたのは12世紀後半のクレチアン・ド・トロワである。『イヴァン(獅子の騎士)』では,イヴァンは致命傷を負わせた騎士を追ってかえって城の中に閉じこめられる。魔法の指輪によって姿の見えなくなったイヴァンの前を騎士の遺体が通ると,遺体から血が噴き出す。遺体から血が流れているのに,犯人が見当らないことに周囲の者は不思議に思う。作者がどこからこの想を得たかは不明にしても,殺害者が自ら殺した者の葬列の場に居合わせざるをえないという状況がこのモチーフを用いさせた動機となったのではなかろうか。彼の追随者たちは好んでこの主題を取り上げるが,師ほどの成功を収めることはなかったようだ。
- 2004-12-31
著者
関連論文
- 河童駒引から中世フランス古譚へ(読後拾遺)
- 妖精の贈り物
- 遺体が血を流して殺害者を告発した話(奥田俊介先生、高木道信先生、高橋正先生退職記念号)
- 奪われた王妃
- メルランの最後の日々(西昭夫先生退職記念号)
- もう一人のメルラン(比較と注釈)
- もう一人のメルラン(類話)
- もう一人のメルラン(紹介)
- ロベ-ル・ド・ボロンにおけるメルランの誕生
- メルランの誕生
- ビスクラヴレとその周辺-2-「ビスクラヴレ」と「メリオン」
- 「12の恋の物語--マリ-・ド・フランスのレ-」マリ-・ド・フランス著 月村辰雄訳--マリ-・ド・フランスの「レ-」の新訳
- ビスクラヴレとその周辺--人狼伝説をめぐって-1-
- ランヴァルを読んで
- 中世フランス文学にみる自然描写の特徴
- 12世紀フランス文学における個の意識の発展-3-
- 12世紀フランス文学における個の意識の発展-2-
- 12世紀フランス文学における個の意識の発展-1-