ヘンリー・デイヴィッド・ソローのA Week on the Concord and Merrimack Rivers : <旅行記>からの逸脱
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概要
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アメリカ19世紀中葉、旅行記全盛時代に一風変わった旅行記が出現した。それがソローのA Week on the Cotico and Merrimack Riversである。その特色は旅の記述から逸れていく厖大な思索部にある。現象界よりもはるかに精神界を重視する超越論者の作として本書は船旅の記録であると同時にソロー内面の旅の記録でもあったのだ。この旅は過去へと向かう。メリマック河を遡行する船旅は時間の流れへの挑戦を象徴し、ソローは行く先々の地名・光景に触発されて過去へと思索を展開していく。その過去の本体は喪失である。時の経過とともに姿を消した先住民、昔の沿岸漁業文化、荒廃する前の牧草地帯のありさまがそこに埋没している。そしてもちろん旅のあと急逝した兄ジョンの姿も。ソローは過去に身を投じ、そこから感受性と想像力の限りを尽くして喪われたものを再現しようとする。ソロー内面の旅はガーバーが"redemptive imagination"と呼ぶものの営為の軌跡である。この試みは旅の終結近く、ソローが一瞬過去の人物と同化を果たしたとき勝利を収める。時間の意味が問い直され、新しい<過去>論が提出されてもいる今日、ここに描かれたような主観による過去奪還の試みは改めて興味深く思われる。
- 東大阪大学の論文
- 2004-03-15
著者
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