形容詞の装定用法をめぐる一考察 : 「多い」「遠い」の場合
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
形容詞は一般に述定としても (例 : このりんごは大きい) 装定としても (例 : 大きいりんごが食べたい) 用いることができるが、「多い」「遠い」は、装定としての使用に制限を受けるという点で特異である。本稿は、「多い」「遠い」の装定用法成立に見られる制約について考察することを目的とする。「多い」も「遠い」も相対形容詞である。つまり他との比較によってはじめて、量、あるいは距離の判断が可能となるという性質を持つ。これらの装定用法が成立するには、この比較判断の際の対象が明示化されるという条件が必要だと考えられる。比較対象の存在の明示は、「多い」の場合であれば、範囲限定という形で間接的に、あるいは比較対象そのものを示すという形で直接的になされる。「遠い」の場合であれば、距離を構成するふたつの地点が明示されればよい。したがって、視点の位置からの見え方を描く場合のように、距離を構成する地点のうちのいっぽうが主体的に把握されているとき、「遠い」の装定用法は成立しない。装定において比較対象の明示が必要だとする本稿の記述は、非文末における判断客体化のあり方の一例として位置付けられる。