農業者への優遇 : 土地改良事業の特異性
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
産業政策は幼稚産業を育成し,衰退産業の撤退を円滑にする等,異なる産業部門の間の資源配分を効率化し,長期的な経済厚生最大化を目的とする。他方,社会政策は経済的困難にある者を(時限的に)救済する。日本の農業政策は農業の生産性向上という産業政策としてでなく,既存農業者の利益擁護という社会政策として理解することができる。この点を農業に関する資本補助金の主要部分を占める土地改良投資に関して検討する。最初に,農業の主要な生産要素の1つである農地に関して,日本の特殊性,政策の問題点,解決の方向を述べる。農地に関する多くの政策は既存農業者の利益確保を目的として策定されているが,そのために,互いに矛盾する効果を生んでいる。農業者が補助金に頼らず,自立的,健全な農業を営むためには,農地当たりの農業者数を大幅に減少させる必要がある。それは自然の流れでもあるが,政策的には農業者間の競争強化と退出者への過渡的措置により,産業政策と社会政策を調和させることができる。農地に関しては,新規参入の自由化を図ると同時に,(公共部門が農地への投資に補助するならば)実質的な転用規制を強化すべきである。農地の生産性向上のための土地改良投資は日本では他国,他産業に例を見ないほど納税者の負担が大きい。しかも,農業を巡る社会,経済環境の変化に対し,土地改良投資の大幅な縮減をすべきであったが,農業者を含む関係者の利益を守るため,納税者の負担比率を高めることにより投資総額を拡大しつつ,投資目的を徐徐に,かつ,着実に方向転換してきた。土地改良投資が齎す社会的費用は大きい。このような公共部門による非効率的な投資が続いている政治的な理由に関しても触れる。最後に,若干の政策的提言を纏める。
- 拓殖大学の論文
- 2005-03-31