地方交付税の適正規模(1)
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概要
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日本の財政は現在, 0ECD諸国中最も困難な状況にあり, かつ, 将来の一層の悪化が予想されている。将来世代への過大な負担の転嫁を是正するためには, 現在の相対的に低い租税負担比率の引上げも必要だが, 当面の公的部門の拡大に対処すべく, 支出の効率化は不可避である。大きな支出項目としては(他の主要国と同じく)社会保障もあるが, 日本の場合, 地方財政への支援と(これも地方公共団体の支出が大きいが)公共事業の大きさが特徴的である。支出の大小は国, 時代の環境により様様であり, 究極的には国民の嗜好に従う。 しかし 問題は制度的に非効率性が組み込まれているbuilt-in inefficiency ことである。そのような制度的誘因institutionalized incentivesを白紙に戻す場合, 国民の選択は従前とは異なるものとなる。 公共事業に限らず, 一部の支出および収入(税収)について地方公共団体が直面する価格は国の支援, 制度により歪められている。その結果, 市場の失敗を是正する筈の公共部門が最適な資源配分を歪めている。これは経済に長期的かつ大きな効率性の損失を生じさせる。国の財源保障はそれを受ける地方公共団体のモラルハザードmoral hazard を招く。首長, 議会の他者への依存体質を助長し住民の自律, 自立への関心を喪失させる。ある意味ではこのような精神面の歪みに伴う問題は経済的損失を超え, 将来世代への最大の負担となるかもしれない。 地方交付税は地方公共団体の一般財源を保障することによりその財政的自律性を確保するために設けられた。その当初の目的を達成したと思われた時, 皮肉にも地方公共団体は他者依存体質に変換していた。制度の運営に当たる者が真の目的(地方の自律性の回復, 財政面の地方自治の確立)を見失い, 手段(国の十全な支援)が目的化した結果である。すべての組織は人が動かす。人の行動は人の意識に依る。真の目的を達成するためには意識および行動への適切な誘因が欠かせない。経済学の最大の命題dogmaの1つである誘因の重要性を無視して制度を作れば, 結果は設計者の当初の意図を裏切ってしまう。その結果を見て政策担当者に倫理の向上を求めるのではなく, 目的が誘因適合的incentive compatible となるように制度を変更しなければならない。 本論文の構成は次の通りである。始めに, 地方交付税と財政調整の制度を概観し, 次に, 主要国の一般補助金の制度を纏め, 地方交付税の問題点を述べ, 最後に, 改革への試案を示す。
- 2003-11-30