萩原葉子の文学 : 母の不在と自棄を超えて
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概要
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萩原葉子の文学は、小説とエッセイから成っている。作者自らが私小説のジャンルに入るという代表的な作品に共通するのは、母の不在という特色である。母の不在が引き起こす自棄は、祖母や叔母からのいじめによるものである。自分を生きる価値のない人間とみなし、自信の全くない人間となり、人と対話することが出来ず、対人恐怖症に陥る。祖母や叔母に虐げられてきた、思い出したくもない過去や、母との関係を書く行為を通して初めて自分自身の心を見つめることが可能となる。別れた後、片時も忘れたことのなかった母への思慕は、再会後に嫌悪混じりの戸惑いに変わる。母親は、あのようにだけはなりたくないという反面教師的存在となったのである。ダンスを始めたのも、怠惰な母に似ることを恐れたためである。小説の出版記念パーティーにおいて、居並ぶ人達の前でダンスを披露することは、対人恐怖症を克服したいという必死の願いからである。母の不在や自棄を越えて自力で生き披く決意をする主人公の女性の心理を分析することが本稿の目的である。
- 人間環境大学の論文
- 1998-07-31