唱歌『夕の鐘』と映画『東京物語』 : 日本におけるキリスト教文化の受容と変容の一断面
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概要
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小津安次郎監督の松竹映画『東京物語』(1953年)は、親子・人間の絆を扱った世界の映画史上の傑作である。そのクライマックスに唱歌『夕の鐘』が用いられている。この歌のメロディーは、フォスターの『主人は冷たい土の中に』であるが、このメロディーは、キリスト教の『聖歌』519の中でも用いられている。この聖歌の歌詞の内容と『東京物語』の主張は不思議に合致するように見える。日本の唱歌は、米国人音楽教師Luther Whiting Mason (1818-1896)の指導の下で1882年に誕生した。彼の選択した歌の中には、キリスト教の讃美歌に由来するものが多く、以来唱歌を学んだ日本人の心の中に讃美歌のメロディーが入り込むことになった。従って、映画『東京物語』のクライマックスで唱歌『夕の鐘』を聞く時、観衆は幼き子供の頃の素直な感受性に引き戻され、それが聖歌519番を知る者である場合には加えて深い愛への思いを抱かされるにいたるのである。ここに一つのメロディーを通して知りうるキリスト教文化の受容と変容の姿がある。
- 人間環境大学の論文
- 1998-03-31