台湾半導体産業における企業間システム : 取引関係を中心として
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概要
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半導体製造を進めるには、5つの段階が必要である。本稿では、設計とウェハ製造の統合・分離によって、「垂直統合」と「垂直非統合」の企業間システムを定義したうえで、台湾の半導体産業発展の特徴である垂直非統合の発展要因を、企業間システムへの考察を通じて解明しようとしたものである。その際、取引コストの構造、取引形態、企業間システムに内在する競争と進化のメカニズムを考察の対象とした。取引コストの構造について、デザイン・ルールの発明によって、製造委託が可能になったが、このような技術条件が成立した前提において、垂直非統合の取引コストは、取引特殊的資産が存在していないこと、ファウンドリの情報開示の努力、企業間の共同利益への認識の高まりなどによって抑えられてきた。このような、取引コストを抑える制度的な機能が働いている企業間システムの形成は、垂直非統合が発達する前提条件と言えよう。取引形態については、垂直非統合における取引形態は、長期継続的取引および価格統治機構が並存する取引形態である。このような形態が採用される要因は、産業の特性に求めることができる。すなわち、(1)スポット取引採用の困難さ、(2)長期継続的取引のメリット、(3)組織内取引への転化の困難さ、などである。これらの要因の中で、スポット取引採用が困難なことの要因である品質審査と試作は、情報非対称性を低下させるために、取引コストが抑えられる。また製造品質の実施も生産コストの低下につながる。長期継続的取引を採用するメリットである「関係準レント」の存在は、情報非対称性と不確実性を低下させることができるばかりでなく、生産コストを低下させる効果も生じる。そして組織内取引に転化しにくい要因のうち、取引特殊的資産が存在しないことは取引コストを低下させ、そして、範囲の経済と規模の経済、および設計と投資効率向上などは生産コストを低下させる。このような長期継続的取引形態のもとで、垂直非統合の企業間システムには、取引コストを抑えるメカニズムが内在するばかりでなく、そこでは競争と進化機能が同時に働くことによって生産コストが最小限にまで低下しうる。それは垂直非統合のもとでの専業設計企業が競争力を獲得するための鍵と言えよう。なぜなら、専業設計企業の製造委託価格は取引コストと生産コストによるものからである。このように、本稿では垂直非統合の発展要因を明らかにした。しかし、垂直非統合の発展は、それが垂直統合を代替するということを一般に意味するものではない。それは、専業設計企業における製品が主に非汎用型の製品であることによる。いずれにせよ、非汎用型の製品特性のもとでは、半導体技術変化による投資コストの巨大化、および製品寿命の短縮化などによって専業設計企業による製造委託への需要が高まりつつある。それらの条件と要因によって、1990年代以降垂直非統合の企業間システムがますます発展していくのである。
- 2005-09-30
著者
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