半導体企業における生産方式選択の決定要因 : 台湾における企業行動からの考察
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概要
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本稿の目的は、半導体企業における生産方式選択の決定要因を明らかにすることである。半導体製造の5つの段階の中で、設計と製造は中核技術である。半導体の生産方式には設計と製造が社内で統合される、あるいは異なる企業によって担われることにより、垂直統合と垂直非統合という2つの生産方式がある。半導体4大生産国である米国、日本、韓国、台湾において、この2つの生産方式が並存している。とりわけ、台湾において多くの企業が垂直非統合を採用している中で、垂直非統合から垂直統合に転換する、あるいは一貫して垂直統合を維持してきた企業が見られる。また、このような現象は台湾のみならず、1990年半ばから、垂直非統合が台湾から世界に広がると同時に、メモリ企業は垂直統合の生産方式を一層強化する現象が見られる。そこで、なぜ企業によって、異なる生産方式が採用されるのか、企業側における生産方式選択の決定要因は何であろうか、また、その選択は企業における対外競争、あるいは産業の発展にとってどのような意味を持つのか。本稿はこの点の解明作業を進めるために、2つのアプローチをとることにした。すなわち、半導体主要生産国の企業における生産方式の選択経路を考察したうえで、台湾企業の事例研究を通じて、その差異がもらされる要因を具体的に検討することにする。そして、個別企業の事例の考察から得た結果を半導体主要生産国の企業の分析に還元し、半導体企業における生産方式の選択要因を一般化する。本稿の考察の結果による、半導体企業における生産方式選択の決定要因は、(1)市場規模、(2)企業間の取引コスト、(3)組織能力の相対的優位性から捉えることができた。1980年、設計基準の発明によって、半導体の製造においては設計と製造段階を分離することが可能になり、垂直非統合の生産方式が採用されるための技術条件が満たされるようになった。また、1980年代以来、半導体産業の規模は一貫して成長し続けている。半導体はメモリ、アナログ、マイクロ、バイポーラなどの製品に大別することができるが、いずれも一貫して成長を遂げてきた。このような技術と市場規模拡大という条件が満たされた前提のもとで、アダム・スミスあるいはスティグラーの議論によると、垂直非統合の採用は適したものになる。現実には、台湾の6社の企業行動を考察した結果、ロジック、マイクロ製品の企業は垂直非統合を採用する一方、メモリ、アナログ製品の企業は垂直統合を採用する傾向が見られる。すなわち、同様に市場成長性のある製品が異なる生産方式を採用するわけである。このような差異がもたらされた要因としては、製品の技術特性によって、企業間の取引コストが異なることが挙げられる。メモリ製品において、製造技術がコア競争力であり、絶えず微細化製造技術を開発するために、多大なエンジニアリングが必要となる。それによって、対外製造委託の取引コストが莫大になり、垂直非統合を進める阻害要因となる。その代わりに、設計技術がコア競争力であるロジック製品は、ファウンドリが開発した標準工程技術を使用することができる。企業間の取引コストは汎用型メモリ企業のそれより低いことは、分業を促進した要因となった。しかし、企業間の取引コストが低い製品において分業を促進するためには、製造委託先における製造技術が相対的な優位性を持つことが必要である。その理由は半導体の性能は製造を通じて表現されるからである。対外製造委託先における製造技術は製品が要求する技術力を達成できなければ、内製の選択となる。1990年代半ば以降、ファウンドリにおける製造技術の能力が飛躍的に進歩してきた。加えて、8インチ工場の建設コストが莫大になり、工場建設の効率性が悪化したことは、分業を促進する要因となった。今後ロジック、マイクロ製品の産業規模がますます拡大してくと予測される中で、垂直非統合の生産方式がますます拡大する一方、メモリ、アナログ製品では、製品の特性によって、企業間の取引コストが高いため、垂直統合を維持していくであろう。
- 2004-09-30
著者
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