石垣島の養殖クロチョウガイに着生する苔虫類
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概要
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八重山群島川平湾においては, 琉球真珠会社が内地では養殖不可能な, 大型南方系のクロシンジュガイの養殖を行っており, それが生産する黒真珠は本島特産として重要な経済的価値をもっている。しかし, その垂下養殖の過程において, 浮玉, 口ープ, 網籠のみでなく, 貝自身の殼上にも, 海綿, ヒド口虫, イソギンチャク, 管棲多毛類, 着生性二枚貝, 苔虫, ホヤ, サンゴ藻など多様な生物が繁殖して, 年間1∿2回の面倒な貝掃除を必要としていて, これに対する対策の基礎となる生物学的研究が要望されている。本報告はそのうちの苔虫類に関する研究の結果であり, 同定し得た8種のうち, 1種は新種 Smittina variavicularis として記載された。この新種の群体はクロチョウガイ生殼の外面および死殼の内外両面に扁平円盤状をなして着生する。虫室は幼生の変態によって生じた初室を中心として放射状にならび, しばしば群体直径は3cm をこえる。初室は卵形で前半は類円形の開口で占められ, その周縁にほぼ等間隔に9棘を生ずる, 後半をしめる裸壁は微小な粒状物でおおわれるが, やがて周辺虫室の発達によって埋められて, 9棘をもつ円形開口のみを示すようになる。環初室虫室群は1個の中央室とこれに隣接する左右2室よりはじまり, やがて後方の2室の発達によって合計5室となる。これらの虫室は前半の開口部に中央歯と側歯を発達せしめる点で, 初室と異なり, その開口縁の棘も前方3棘のみを残すことが多い。裸壁は平滑あるいは微粒性でしばしば数個の縁辺孔をもつ。群体の発達にともなう石灰化の進行につれて, 裸壁は肥厚し, 顆粒が大きくなるとともに縁辺孔は深くなり, その形も漏斗状となるため, 外観はいちじるしく変化して全面が大形の孔で占められた形, あるいは隆起稜におおわれた形となる。一方石灰化は開口部周辺とくにその後方において進行するため, しばしば突起状となって, 開口部をおおい, あるいは開口筒を形成する。これらの裸壁の石灰化と同時に鳥頭体が発達をはじめるが, その大きさは虫室長の1/5くらいの小形のものから, 裸壁全長をおおうほどの大形のものまであり, その位置も開口部直下の中央, 側位をしめるもの, 裸壁中央部あるいは後部にあるものなどがある。また, その形も, 卵形, 楕形, 長形などがあり, 顎も舌状, 三角状, 長嘴状など変化が多く, 本種のいちじるしい特徴となる。また, その方向も後方, 斜後方, 側方, 前方, 斜前方などあらゆる方向に向く。とくに長嘴状の顎をもった巨大な烏頭体はその嘴部に明らかな鋸歯を示す。卵室は典型的口上卵室型に属するが, これも半球形で微小孔を穿つものから, 肥厚して虫食い状孔を穿ち, 周辺に石灰質の厚い帯をめぐらすものまで変化が多い。本種は, その多種多様な鳥頭体の変化的発達において他に類を見ない特徴を示すので, 新種と認定する。
- 国立科学博物館の論文
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