すばる望遠鏡天体分光観測用VPHグリズムの開発

概要

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本研究で作製したVolume Phase Holographic (VPH)グレーティングは,レーザを光源とする2光束干渉露光により,干渉縞の光強度分布を記録材料の屈折率変調として3次元的に記録された,ホログラフィック格子である。また,記録材料が干渉縞の間隔より十分大きな厚さを持つため,厚いホログラフィック格子に分類される。厚いホログラフィック格子の再生は,一層の格子による通常の回折とは異なり,結晶を用いたX線回折と同様に,多層格子によるブラッグ回折が生じ,ブラッグ条件を満たす入射により,100%に達す高い回折効率を得ることが出来る。2光束干渉露光法は光源のレーザの波長以下の微細周期格子や曲面状格子の作製も可能であり,ルーリングエンジンなどの機械的格子の作製に比べ高性能な回折格子の作製に適している。しかし,これまでは高解像力と露光量に応じた幅広いダイナミックレンジの屈折率変調量を持ち,さらに処理や取り扱いが容易な優れた記録材料の開発があまり進んでいなかったため,特に大面積を持つ高性能な素子へ適用されていなかった。今回のVPHグレーティングの作製には,日本ペイント(株)により新たに開発された光重合性の高解像・高屈折率変調量を持つ液状の高分子フォトポリマーを記録材料として使用した。その結果,0.03の屈折率変調量により80%の高い回折効率を持つVPHグレーティングを,大面積(110×106mm^2)に渡り,わずか±2%の変動率で作製でき,また高い面精度(rms=0.494λ)を持つこともZygo干渉計測計により確認した。一方,我々は2000年度より国立天文台すばる望遠鏡の観測装置の一つである,微光天体分光撮像装置(FOCAS)搭載用の分光素子Volume Phase Holographic (VPH)グリズムの開発を行ってきている。そこで今回試作した直進波長435nm,波長分解能2300のVPHグレーティングを2つのプリズムと合わせVPHグリズムを完成し,2003年6月にハワイ島に出かけ,すばる望遠鏡FOCASに搭載し,性能評価を目的とした測光標準星の分光観測を行った。性能評価実験により,試作VPHグリズム435は設計波長435nm付近で既存のレプリカタイプのグリズム(分解能1000)より高分解能(2300)で,約2倍の回折効率が得られたことを確認した。本論文では,高効率回折格子として,屈折率変調型のVPHグレーティングの設計・作製プロセスについて述べる。また応用として,天体観測用VPHグリズムの開発を行い,すばる望遠鏡FOCASに搭載し性能評価観測により,優れた性能を持つことが確認された結果について報告する。
日本女子大学の論文
2004-03-31

すばる望遠鏡天体分光観測用VPHグリズムの開発

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