自助と互助の社会経済学(庭田範秋教授退任記念号)
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概要
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社会保障は,自助努力に限界のあることが歴史的に証明されたことによって登場し,その後発展を遂げ,今日に至っている。今や社会保障の使命は終わり,社会保障に代わり,あるいは頼ることなく,個人が自らの生活を,また企業が従業員の生活を,全面的・全生涯的に保障していく,あるいは保障していけるという時代になったのであろうか。答は否である。個人の力はますます弱まり,労働者・勤労者の企業への従属の度合が強まってきている。このような状況にあればこそ,全国民・全住民に共通する生活の基盤ともいうべき社会保障の充実が要請される。社会保障の充実なくして社会の健全な発展はあり得ない。高齢化,情報化,高学歴化,国際化などの要因が複雑に絡み合う中で,生活保障ニーズの多様化・高度化傾向は,今後いっそう強まっていくであろう。これに対して,自助の制度の典型たる私的保険は,基本的には所得保障制度であり,多様化・高度化していくニーズに全面的に応えることはできない。多様化・高度化していくニーズの中には,所得に関わるものの他,保健・医療,環境,住宅,雇用,教育など,社会保険制度は勿論のこと,社会保障制度の枠をも越えて対応しなくては処理し切れないものが,多く含まれている。こうした課題に対して,社会保険は,まず社会保険相互間の関係を調整し,制度の分立がもたらす不公平・不平等の本格的な是正に真剣に取り組まなければならないであろう。無論,社会保険制度間の調整・改革と並行して,社会保険と社会福祉・社会サービスなどの関連諸制度との調整が進められ,相互により緊密で効果的な連携が可能になるような態勢を作り上げていかなくてはならない。全ての国民が真に頼ることのできる社会保険に代表される公的保障制度があって,初めて,さらに保障の厚みと拡がりを加える集団保障制度と個人保障制度の意義も増してくる。社会保険に過度の期待をすることは,社会保険についての正しい理解の仕方とは言えないが,逆に社会保険の機能を過小に評価することも間違っている。社会保険は,それが公的保険であるがゆえに,私的保険には到底不可能な数々の実験を行い,数多の成果を上げてきたことを,今一度想起すべきである。
- 1993-04-25