水平荷重をうけた多層鉄筋コンクリートフレーム柱の鉛直耐力(梗概)
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概要
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最近,鉄筋コンクリート建物の耐震設計の基本理念として,フレームをはり降伏型に設計する考えが採用されてきている。地震時の水平応答変位を各層に分散させることを目的としたものであるが,鉄筋コンクリートはりは,基本的に原点指向の特徴をもつ剛性低下型の復元力特性を有している。したがって,はり降伏型フレームは地震を経験することによって,地震後,たとえ外観上は元にもどっても,はり端部に剛性低下域が生ずることになる。このようなフレームは,地震後の鉛直方向の抵抗性に関して,2つの問題を有していると考えられる。一つは,はり端部に剛性低下域が生じることによって,連層にわたる柱の鉛直荷重に対する安定性が低下する恐れがあることである。今一つの問題は,はりそのものの鉛直荷重に対する抵抗性能の問題である。本論文は,前者の問題をとりあげ,実施した実験的研究を報告するものである。特に,動的解析等からも相対的に大きな地霊力をうけることが明らかになっている中低層建物のフレームを対象としている。本論文では,まず,実験現象を追跡するために必要な理論式の誘導を行っている。大変形に至る正負繰返し水平荷重をうけた連層柱の鉛直耐力を求める方法をのべたものである。各層のはり端が降伏し,その位置に等価線形回転バネが存在するとし,一方,柱は一様断面で,やはり等価断面剛性を有する弾性体として扱っている。このような仮定に基づいて,エネルギー法(式(1)〜(3))を用いると,残る問題は座屈モードをどう仮定するかである。一般的な表現としては,式(6)の級数を用いることになる。しかし,この式を高次不静定フレームに用いる場合には,きわめて繁雑な計算を必要とする。本論文では,水平荷重をうけたフレームを対象にしていることから,鉛直荷重に対する座屈モードが1次モードになることを考慮して,式(7)の形状のモードを仮定した。この場合には,この式を式(3)に代入して,座屈荷重が最小となるmを求めればよい。さて,現実の建物においては,柱には,各層ごとに,はりから力が伝ってゆくが,かりに,柱には,層ごとに等荷重が加わり,かつ各層高が等しいとすると,そのときの運層柱の鉛直耐力は式(8)によって求めることができる。また,次節でのべる実験的研究において実施したように,柱への鉛直荷重を,運漕柱の頂部への集中荷重に置きかえた場合の鉛直耐力は式(12)によって求めることができる。一方,水平荷重をうけていない場合には,柱の圧縮耐力できまるので,式(16)を用いることができる。このような理論式の有効性をみるために,4層および2層の小型フレームを用いた実験を行った。基準試験体は図3に示す一文字型の1スパン建物を想定し,その1フレームをきり出したもので,水平保有耐力計算値はフレーム(6層)だけでは,相当重量に対し. 0.09であり,耐震壁と併わせて,建物全体としての耐震性能目標を0.30としている。試験体は全部で8体であり,うち5体は,水平荷重を加えたあとに,鉛直耐力を調べた。ほかの3体は,直接,鉛直耐力だけをみたものである。また8体のうち6体は4層で,2体は2層であるが,図4に示す理由で,それぞれ6層および3層を表している。また高さ方向に,はりの主筋量を変化させたものと,主筋量の総和は同じで,各層はりに均等配分した,極限設計の立場から設計した試験体とがある。表1に各試験体の詳細を示す。さて,上記の水平荷重後の鉛直耐力検討用4層および2層試験体と原型の6層および3層骨組について式(12)および式(8)を用いて,各変数に2つの値を与え求めた耐力計算値を比較したのが,表3である。C 63-42 H 試験体を除いて,試験体と原型とが,ほぼ似かよった値になることがわかる。またこの表から,はり端バネ剛性K_<ei>の値が,運層柱の鉛直耐力に最も大きな影響力をもっていることがわかる。次に柱の等価剛性らの値が影響力をもち,最後にたわみ形状である。加力測定の様子を図6に示す。水平荷重は正負等振幅の繰返し加力で,そのプログラムを表5に示す。頭部最大移動率が2×10^<-2>rad.になるまで水平荷重を加え,そのあと,鉛直耐力を調べた。実験結果は表6,7および9,図7〜10および13に示すとおりである。実験結果を要約すると,まず,水平荷重時においては頂部最大移動率2×10^<-2>rad.での耐力を実験値と計算値を比較したところ,表7に示すように,ほぼ一致した結果がえられた。ここに計算値とは,はりはすべて降伏していると仮定し,1層柱脚の剛性低下率を考慮したものである。柱断面の曲げモーメントー曲率曲線を図11に仮定し,式(17)(18)を用いて求めた。表7に示すように,剛性低下率α_Hよ0.33〜9.53であり,柱脚も,大体降伏耐力に達して,ほぼ崩壊時の耐力計算値といえる。一方,鉛直荷重に対する耐力について,実験値と計算値を比較したのが,表9である。計算値の方は,次の仮定のもとに,式(12)を用いて求めたものである。i)各層はりの等価線形バネ剛性は,水平荷重時の頂部最大変位に基づいて求める。ただし,たわみ形状は,式(7)のmが最小値をとるときの形状になるよう,試行錯誤によって求める。ii)柱断面に,軸力が加わってゆく場合の断面の曲げ剛性は図11の曲線に従うものとする。図12は,最終的に計算値がえられる様子を示したものである。さて,表9から明らかなように,C 63-42 H 試験体を除いて,実験値と計算値は,ほぼ一致しているといえる。C63-42 H は,最大耐力時に,頂部水平変形が著しく増加し,水平荷重時の最大変位を大幅に越えた。上層のはりの等価剛性が計算仮定の値より,相当低下していることが考えられる。以上より,弾性応力分布に基づいた,現行設計法のように,上層ほど,はりの抵抗を小さくする場合には,水平荷重をうけたあとの連層柱の鉛直耐力は小さくなることが予想され,極限設計法の開発が望まれることがわかった。なお,鉛直耐力計算値を求める際にえられた柱の剛性低下率叫は0.66〜0.89であり,水平荷重時のα_Hとかなり違った値になる。最後に,図13において,最大耐力時の座屈モードを,ほぼ予測できることを示した。
- 1986-02-28
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