近代日本文学の誕生(1) : 子規、虚子、漱石の手紙・交流から(稲畑汀子氏の講演・英訳を紹介して)
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概要
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異なる精神、異質な文化が出会うとき、ときにその交流・友情・対話は、人間的ドラマをともなって新しい芸術・文学の「胎動」、「創造」の場面を生む。江戸時代から明治に代わる最後の年に生まれた漱石と子規。彼らより少し、若い虚子。この三人が交流し、文学者として活躍した、あるいは活躍し始めるきっかけをつかんだのは、今からおよそ百年前である。いまや近代俳句の父とされる正岡子規、子規の俳句思想を受け継ぎ俳誌『ホトトギス』とともに近代俳句の伝統と今日にいたる発展の礎を築いた高浜虚子、近代日本小説を代表する作家・夏目漱石、という三人はそれぞれの出身地、個性、才能、志や欲望をもつ若者であった。彼らが文学への情熱と若者らしい純粋さ、権力への批判、挫折や孤独感をぶつけ合う中で生まれた発見、実践、決断…。その道筋を彼らの手紙を中心にたどってみると、それまで日本の教養人を育んできた漢文と日本の古典・和歌の伝統と、一度に聞かれた扉から導入される西洋文明思想と近代化の潮流がせめぎ合うさま、そのなかで彼ら自身が夢中で体得した文学創造のリズムが、今日の読み手にもリアルに伝わってくるように感じられる。言葉においても、漢文と英文が、俳句と小説が、批評と創作が、対話しつつ新たなものを生み出すエネルギーとなった時代。そうした坩堝のような状況下で、感性豊かな人間たちが、各自の個性と才能を活かしきる「文学創造」とは何であったか。「近代日本文学の誕生」と題する本稿は、第一部、第二部に分かれる。第一部(今回)は序論にかえて、虚子の孫で『ホトトギス』主宰の稲畑汀子氏の講演「子規・漱石・虚子」を本学学生の対訳で紹介し、その視点の意義を示す。この講演は、三人の出会いと交流が後の彼ら文学形成の契機を生む過程、概要を、彼らの手紙の抜粋をもとに構成したもので、普通の文学研究、資料研究には見られにくいものをもつ。すなわち、文学をめざす三人の「人間」の生きた交流が、彼らの手紙を通して直に伝わることを素直に示していて、分かりやすい。第2部は、「手紙を通して…」の視点をさらに進めて、筆者自身が、子規と漱石の出会いからロンドン留学中の漱石の手紙と子規の死にいたるまでの13年間の往復書簡を読み解き、その「文章」と歴史文化的背景を通して彼らの交流と文学の本質を明らかにしようとする「本論」である。主に英文学を通して彼らが吸収した西洋思想、古典、漢文の伝統の間で、異なる文化、思想にぶつかっていく一つ一つの言葉の意味とその流れに注目した抜粋・英訳を行い、手紙の文章の対話性と変化から、近代日本人として東西文化に対する漱石と子規の対応の違いを探り、彼らの葛藤、批評、発見の瞬間と、そこに生み出された文学の核心にせまる。
- 2004-07-20
著者
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