カヤツリグサ科一年生雑草コゴメガヤツリ・カヤツリグサの個生態学的研究 : 1.種子の休眠,発芽および出芽
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概要
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コゴメガヤツリは世界の多くの水田における主要雑草である。それとともにカヤツリグサ属に含まれるカヤツリグサは、日本の畑地の強害草であり、その形態がコゴメガヤツリに近似している。これらの効果的な防除法を確立する基礎として、両者を対比させながら個生態学的研究を行った。ここではまず種子の休眠・発芽および出芽に関する試験の結果を報告する。 1. 採種後1年の間種々の条件下に種子を貯蔵し、その間の休眠および発芽の変化を追跡した。コゴメガヤツリ種子の結実直後の発芽率は40%であったが、貯蔵処理開始後短期間で大部分の種子が発芽するようになった。しかしカヤツリグサの種子は結実直後には全く発芽せず、畑土壌中に埋蔵した種子だけが短期間で休眠から覚醒した。カヤツリグサの湛水土中の種子と実験室中に貯蔵しておいた乾燥種子は1年の間に徐々に休眠から覚醒したが、低温暗所に貯蔵しておいた種子の休眠覚醒は進行しなかった。なお低温暗所および湛水土中に貯蔵しておいたコゴメガヤツリの種子は一時的に発芽率が低下し、その間二次休眠の状態にあったとみられる推移を示した(Fig.1)。 2. 畑土壌中に埋蔵したコゴメガヤツリとカヤツリグサの種子はともに明条件下で発芽が促進された。コゴメガヤツリの種子は、明条件下では変温でも恒温でも土中埋蔵期間に関係なく高い発芽率を示したが、暗条件の変温下では土中埋蔵期間が長くなるにしたがって発芽率が高くなった。カヤツリグサの種子は変温明条件で土中埋蔵期間が長くなるにしたがって発芽率が高くなった。恒温明および変温暗の両条件下でも、低い率ではあったが、処理期間長くなるにともなって発芽率が高くなる傾向が認められた(Fig.2)。 3. コゴメガヤツリの種子は乾燥状態よりも水浸状態で、さらに湿潤状態で発芽がより良好であった。カヤツリグサの種子は5℃と15℃とではコゴメガヤツリの場合と同じ傾向であったが、 25℃と35℃とでは湿潤および水浸状態で発芽が甚だしく阻害された(Fig.3)。 4. 明条件下における種子の発芽の温度に対する反応がコゴメガヤツリとカヤツリグサとで異なった。恒温の場合カヤツリグサの種子は25℃か40℃までの範囲で発芽したが、コゴメガヤツリが発芽した範囲はより広く、15℃か40℃までであった。また両種とも30℃と20℃の昼夜変温下でより高い発芽率を示した(Table 1)。 5. コゴメガヤツリ、カヤツリグサともに地表の種子はよく発芽したが、土壌中の種子は深くなるにともなって発芽率が急激に低下した。地表面下1cm前後より深い土層にある場合、コゴメガヤツリはほとんど発芽せず、カヤツリグサは全く発芽しなかった(Table 2)。
- 日本雑草学会の論文
- 1988-05-26
著者
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