日本産アカイエカ・グループの研究 第 II 部 : II 無吸血産卵性アカイエカ 4-4 型集団における呼吸管毛型
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概要
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アカイエカ幼虫呼吸管毛型の分類学的意義については, すでに多くの研究がなされているが, この形質出現の原因についてはまだ十分な検討がなされていない.一般的にみると, 呼吸管毛束は, 人為的汚染のない自然水域から採集される幼虫集団においては, 人為的水域(下水溝, 肥料溜など)から採集される集団におけるより多い(Ishii 1961 1964).一方, この型は幼虫各令期を通じて一定であると考えられる(Sakakibara 1963a 1963b Ishii 1965)から, 自然集団における呼吸管毛型出現頻度の相異は, 生息地の環境要因が呼吸管毛型発現に影響したためでなくて, 呼吸管毛型出現頻度を異にする成虫集団がそれぞれの産卵場所として異なつた水域を選択することによると考えることができよう.このように推論するためには, 呼吸管毛型に関する系統が証明される必要がある.呼吸管毛型の各型についての淘汰実験をアカイエカ(Culex pipiens pallens)について行なつた結果, 各型について淘汰は有効であり, 淘汰を繰り返すことによつて, 目的の型の出現頻度を高めることができた.しかし, 特定の型のみを出現させることはできなかつた.呼吸管毛型の遺伝機構は単純な分離比をもたない複雑なものであろうと思われる(Ishii 1966b 1967a 1967b).この遺伝機構についてより詳細な研究を行なうために, アカイエカは吸血産卵性, 広所交尾性, 多数交尾性などの性質のため実験材料として不便であるので, 無吸血産卵性のチカイエカを使つて実験を行なつた.材料に使つたチカイエカは1965年10月に仙台で採集し以後実験室内で累代飼育したものである.この原集団の幼虫形質についてはすでに報告した(Ishii 1967c).このチカイエカ原集団の呼吸管毛型出現頻度は4-4型の次に5-4型が多く, 4-4型の次に4-3型が多い普通の仙台産アカイエカのそれとは異なつていた.このような呼吸管毛型出現頻度の相異は, チカイエカをも含めたアカイエカ・グループの研究に意義あると考えて, チカイエカについてアカイエカで行なつたと同じような実験を試みた.この一連の報告の第2部はこれらの結果について報告する.淘汰はアカイエカについて行なつた方法に準じて行なつた.実験中における孵化卵舟率と孵化卵率を第1表に示す.孵化卵舟率はF_1-F_10を通じて高く(83.3-100%)変化はないと思われる.孵化卵率には低下が観察されたが, 後の報告にみられるような, 後代が得られないほどには低下しなかつた.呼吸管毛型の各世代における出現頻度は第1図および第2, 3表に示されている.4-4型についてみると, 原集団における出現率, 68.0%をF_2における最高90.2%にまで高めることができたが, F_8における67.5%というような結果も出て, だいたい80%(F_1-F_4の平均値は83.1%, F_6-F_10における平均値は77.7%)に落着くものと思われる.これに対して5-4型は淘汰により低下した.F_3における4.0%以下にはならなく, どの世代でも4-3型の出現率よりも多かつた.この結果とアカイエカにおける結果と比べると, アカイエカにおいては, F_1-F_4における4-4型の平均出現頻度は80.1%で, 4-3型の10.9-19.7%が次ぎ, 5-4型は1.0-2.8%であつた.このような両実験間の呼吸管毛型における相異が, アカイエカとチカイエカとの相異に関係するか, アカイエカとチカイエカを含めたアカイエカ・グループの性質であるかはまだ結論づけられないが, アカイエカ・グループの変異の問題について1つの示唆を与えるものと考えられる.
- 日本衛生動物学会の論文
- 1969-07-10
著者
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