キンポウゲ科における新種と新組合せ
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概要
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Myosurusはキンポウゲ科のキンポウゲ連に分類されているがそのなかではかなり特殊な位置にある。明瞭ながくと花冠をもつことはキンポウゲ連の特徴であるが胚珠(種子)が垂下することはイチリンソウ連の特徴である。細長い根出葉と1花を頂生する花茎をもつ小さな1年草。がく片の基部が突出し, 距と呼ばれているが, 中実で蜜分泌とは関係ない。極めて多数の小さい雌ずいがあり, 花床の伸長とともに求頂的に発育する。基部の雌ずいは内交配, 遅れて成熟する上部のものは外交配する。約15種が世界中の温帯から暖帯に分布するが東アジアにはない。分布の中心は北米西部で約8種がある。そのうちM.minimus L.は東アジアを除いて広く北半球に分布する。その他南ヨーロッパに2種, 南アメリカ南部に2種, オセアニアに2種, それから南アフリカにはここで記載されたM.capensis Tamural種がある。この属の分布の広さは必ずしも古さを示しているのではなく, むしろ新しく種分化をともなって分布域を拡げたと推定される。Halerpestes(ヒメキンポウゲ属)は先に述べたように(本誌42巻 : 177-187頁)果壁の構造によってRanunculus(キンポウゲ属)の群から区別されOxygraphisの群に入る。そのなかでは匍匐枝を出すこと, 花弁が黄色でがく片よりも長いかほぼ同長であることなどにより特徴づけられている。約10種, 塩湿地を好み, アジア, 北米, 南米に分布する。H.cymbalaria(Pursh)E.Greeneは北米, 南米に分布し, スカンヂナビアで野生化している。日本のヒメキンポウゲH.kawakamii(Makino)Tamuraはこれに近い。H.variifolia(Tamura)Tamuraはヒマラヤ地方, チベット, 四川, 甘粛の高山帯に分布し, 葉は幅広くしばしば浅い心脚となるが, はじめ母種とされたH.lancifolia(Bert.)Hand.-Mazz.では葉は細長い。この属は南米から8種ほどが記載されているがLourteig(1952)はそれらをRanunculus cymbalaria PurshとR.cymb.f.exilis(Philippi)Lourt.にまとめた。この属の南米における変異がわからず種の範囲づけが困難であるが, 少なくともH.exilis(Philippi)TamuraはH.cymbalariaには似ておらず, むしろヒマラヤ地方のものに近い。Krapfiaは約8種が南米 : コロンビアからチリ北部にかけてのアンデス高山帯に分布し, ペルー高山帯のLaccopetalumとRanunculus(キンポウゲ属)の中間に位置する。花は大きく球状で, がく片, 花弁は肉質, 雌ずい, 痩果は小さく極めて多数。キンポウゲ属の花床では雌ずいの着く部分は普通球状ないし楕円状, 雄ずいの着く部分は台状になっているが, KrapfiaやLaccopetalumでは全体として肉質で棍棒状, 雌ずいの着く部分と雄ずいの着く部分との間に隙間があり, そこに葯がくる。これらの花の特徴は乾生態として説明される。Laccopetalumでは乾生態的特微は一層顕著となる。
- 日本植物分類学会の論文
- 1993-08-30
著者
関連論文
- 種子タンパク質によるシラネアオイの免疫分類学的研究
- 小山鐵夫, 東禎三, 渋谷千恵, 横山恵子:『黒船が持ち帰った植物たち』B5判, 1996, アボック社出版局, 1500円.
- 戸部 博著, 『植物自然史』, 本文, 188頁, 1994年4月25日発行, 朝倉書店, 2781円.
- キンポウゲ科の新組換名
- キンポウゲ科における新種と新組合せ