タイ国クラドン山産ジャノヒゲ属(ユリ科)の研究
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概要
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筆者は1988年の第9次京都大学タイ国植物調査隊に参加し,タイ国北東部のクラドン山(標高1316m)において植物調査を行った。そこで採集した標本とBK, BKF, KYOに収蔵されている標本に基づいてユリ科を研究し,9属16種を同定した。すなわち,Gloriosa 1種(ユリグルマ),Iphigenia(日本に近縁属なし)1種,Chlorophytum(オリヅルラン属)4種,Dianella1種(キキョウラン),Asparagus(クサスギカヅラ属)2種,Disporum(チゴユリ属)1種,Disporopsis(アマドコロ属に近縁)1種,Ophiopogon(ジャノヒゲ属)4種,Peliosanthes(ジャノヒゲ属に近縁)1種である。これらのうち,Chlorophytumについては本誌40巻で既に発表したが,本稿ではジャノヒゲ属について報告する。この属は54種から成り,インド,ヒマラヤ,インドシナ,マレーシア,中国,日本に分布する。日本にはノシラン,ジャノヒゲ,オオバジャノヒゲの3種とジャノヒゲの変種のナガバジャノヒゲが生育する。この属とPeliosanthesは子房が半下位であり未熟な果実が破裂して種子が露出し成熟するというユリ科の中で独特な特徴を有するが,副花冠がないことにより後者と区別できる。クラドン山にはOphiopogon kradungensis, O. intermedius, O. brevipes, O. marmoratusが生育する。O.kradungensisは本稿で新しく記載した種であるが,匍匐する地上茎をもち,大型で平開する花(花被片長8-11mm)と大型の集葯雄蕊(葯長6.5-8.5mm)を有する。この種はタイ国北東部に固有である。O. intermediusは細い根,長くて淡緑色の花茎,鐘形の花,離生する葯をもち,インド,ヒマラヤ,インドシナ,中国南部に分布すいる。O. brevipesはO.intermediusに似るが,太い根と淡紫色の花茎をもち,根茎を発達させる。この種はタイ国に固有である。O. marmoratusは明瞭な葉柄と広い葉身(幅2.1-2.4cm)をもつ。中国の汪發傘纉と戴倫凱はこの特徴を重視して,この種をPeliosanthoides節に分類し,Ophiopogon節中に入る他の3種と区別した。この種はインドシナと中国広西省に分布する。クラドン山において,O. brevipesは主に標高850-950mの落葉広葉樹林の間にある竹やぶの中に生育するのに対し,O. kradungensisとO. intermediusは標高950m以上の常緑広葉樹林中に生育する。特にO.kradungensisは林中を流れる川の辺に密な集団をつくって生育している。
- 1990-09-25