タイ国クラドン山産Chlorophytum属(ユリ科)の研究
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概要
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本稿では,1988年の第9次京都大学,タイ国植物調査隊により収集された植物標本およびBangkok National Herbarium (BK),The Forest Herbarium (BKF),京都大学標本庫(KYO)に収蔵されている植物標本に基いて,タイ国クラドン山に生育するChlorophytum属を検討し,4種,C. dolichocarpum, C. laxum, C. intermedium, C. orchidastrumを報告した。この属はオーストラリア,マレーシア,中国南部,西部,インドシナ,ヒマラヤ,インド,アラビア南部,アフリカに分布し,ユリ科Asphodeleae連Anthericinae亜連に分類される。日本産の植物では,1属1種のケイビラン(Alectorurus yedoensis)がこの亜連に属する。ケイビラン属では,果実に低い3稜があり,そのかどが丸く,種子は長楕円形で褐色,基部に長白色毛があるのに対し,Chlorophytum属では,果実に3翼があり,そのかどは鋭く,種子は歪んだ円盤状で黒色,全面に微細粒状突起がある等の点でこの両属は異なる。クラドン山産Chlorophytum属4種のうち,C. dolichocarpumは,C. acauleに近縁であるが葉が長く,小果柄が短かく,果実が約2倍大きい等の点で異なるので,新しく記載したものである。この種では,葉は緩くほぼ二列縦生に配列された線形で,果実は縦長く大型である。C. laxumでは,葉はほぼ二列縦生に配列され狭線形で反曲し,小花柄は果実時に湾曲する。この種はオーストラリア北部,マレーシア,中国南部,インドシナ,インド,熱帯アフリカに分布する。C. orchidastrumは大型の植物で,葉は〓生し皮針形から楕円状皮針形,花序はしばしばよく分枝し,花被片は果実時にしばしば脱落している。この種はマレー半島,インドシナ,インド,熱帯アフリカに分布する。C. intermediumはC. orchidastrumに似るが,さぼど大型ではなく,葉は線状皮針形,花序はあまり分岐せず上部に乳頭状突起を有し,花被片は宿存する。この種はタイ国に固有である。クラドン山において,これら4種は標高約950m以下の落葉広葉樹林帯にのみ分布,生育するが,C. laxumはやや乾いた所にまばらに生育するのに対し,C. orchidastrumは主にやや湿った所に生育し,時々密な集団を形成していた。
- 日本植物分類学会の論文
- 1989-07-30