北海道産キケマン属の新種チドリケマソ
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概要
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北海道東部及び中部産の新種,Corydalis kushiroensis(和名:チドリケマン-新称,Fig. 1)を記載する。この種は,従来,フロラなどにおいてナガミノツルケマン C. raddeanaと混同されていた。チドリケマンは日本産のキケマン属Corydalisのうち,ナガミノツルケマン(Fig. 2, B; Fig. 3, C),及びツルケマンC. ochotensis(Fig. 2, D; Fig. 3, B)に類似する。以上の3種は,盛んに分枝し,多数の茎葉を付ける二年草であり,黄色の花冠,朔果のバルブが巻き上がることで種子を弾いて散布すること,夏から秋に掛けて開花・結実することなどの特徴で,日本産の他の種から区別される。チドリケマンは,ナガミノツルケマン,ツルケマンからは,花が小さい(長さ9-13mm)ことと,距が真直ぐ斜め上へ伸びていることで区別できる。後の2種は15-20mmの花を持ち,下向きに湾曲する距を持つ。シベリア・モンゴル・中国北部に分布するC. impatiens (Fig. 2, A)は小形の花冠,斜上する距,線形の果実を持つ点,チドリケマンに似るが,柱頭の形が両者では異なる。花冠が更に小さく長さ10mm以下であり,小葉やその裂片がチドリケマンより狭いことでも区別できる。チドリケマン,ナガミノツルケマン,ツルケマンの3種とも沢沿いや林縁,疎林内,路傍,人家近くなどの半陰からやや開けた草地に生育する。チドリケマンは,北海道の東部・中部に固有であり,西限は日高支庁の南端部,あるいは旭川に達する(Fig. 4)。ナガミノツルケマンとツルケマンは,共に,東アジアに広く分布し,前者の分布は全体として後者のそれより南に偏っている。日本では,ナガミノツルケマンが本州・九州に広く分布するのに対し,ツルケマンの分布域は日光・尾瀬周辺,上信国境の一部に限られる(Fig. 4)。大井(1953, 1965),北村・村田(1961)はナガミノツルケマンとツルケマンの差異を変種レベルの違いとした。しかし,両者は果実の形状に加え,苞の形状,花序の花数,柱頭の形態において異なる変異域を持っている。そこで本稿では両者を別々の種として認識した。日本産の3種への検索表:1. 花長9-13mm,距は短く,やや斜め上を向く。外下花弁の基部に疣状の突起がある。果実は線形,種子は果実内で1列に並ぶ。…チドリケマン 1. 花長15mm以上,距はより長く,下側へ屈曲する。外下花弁の基部に疣状の突起は通常無い。2. 果実は線形,種子は果実内で1列に並ぶ。…ナガミノツルケマン 2. 果実は倒披針形から倒卵形,種子は果実内で2列に並ぶ…ツルケマン
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