アジア産ツノゴケ類の分類学的研究I
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概要
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ツノゴケ類は,いくつかの形態的特徴によって,他のコケ類(蘚類,苔類)から画然と区別される。現在では,ツノゴケ類をセン類綱,タイ類綱と対等なツノゴケ綱として分類するのが,一般に支持されている,。ツノゴケ類の生殖器官や胞子体の形態的,器官発生的特徴,あるいは葉緑体の特徴などは,古くより系統的見地から注目され,多くの研究がなされてきたが,ツノゴケ類の種レベルでの分類は,セン類,タイ類に較べ,かなりたちおくれている。STEPHANI(1917, 1923)は,300数種のツノゴケ類の種を世界から記録したが(そのほとんどが,STEPHANI自身が記載した新種である),それらの種については,ごく一部をのぞいて,その後ほとんど研究がなされておらず,今なお,それらの種の分類上の位置は不明確なままである。日本産の種についても,近縁種との比較検討が世界的視野に立って,行なわれることの必要性が説かれてきたが,未だ実現していない。本報では,ツノゴケモドキ属の邦産種の再検討の結果とタイ国産の標本を調べた結果を報告する。従来,日本には,ただ一種類のツノゴケモドキ属の植物が分布していると考えられてきた。堀川(1929)は,それを日本固有種ツノゴケモドキ(Notothylas japonica)とし,井上(1976)は,それをヨーロッパや北米に分布するN. orbicularisと同一種と考えた。著者は,日本各地のこの属の植物を調べた結果,日本には3種類があることを確認した。これら3種類のうち,関東から東北,北海道に分布するものがツノゴケモドキ(N. orbicularis)で,四国の太平洋岸,南九州,台湾に分布するものは,ジャワから記載されたN. javanica(ジャワツノゴケモドキ)として同一種であることが明らかになった。又日本の中央部に分布するものは,日本固有の新種として,N. temperata(ヤマトツノゴケモドキ)の名称を与え,記載した。これら3種は,胞子表面の模様,葉状体の形などで,おたがいによく似ているが,主に〓(capsule)の裂開のしかた,〓壁の構造,弾糸の発達の程度,胞子の色と大きさなどによって区別出来る。ツノゴケモドキでは,〓壁に明瞭な裂開線があり,成熟すると二裂開するが,他の2種には,このような裂開線はない。ヤマトツノゴケモドキでは,〓は一般に縦方向に裂ける傾向があるが,ジャワツノゴケモドキでは,〓〓まったく不規則に裂開する。東南アジア(インドを除く)からは,ツノゴケモドキ属の植物としては,ただ2種がジャワとビルマから知られているだけであるが,京都大学の植物標本庫に保存されているタイ国産のコケ類標本の中に数種を確認した。そのうち今回は,特徴的な胞子表面の模様を有する顕著な一新種N. depressisporaを記載した。
- 日本植物分類学会の論文
- 1979-05-30
著者
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