途上国における農業生物多様性管理に対する協力の日独比較
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概要
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農業における生物多様性が急速に消失しており,その保全は緊急を要する.世界中の多くの機関が,二国間および多国間のしくみを利用して効果的かつ効率的な保全のための協力を展開している.わが国は,植物遺伝資源分野における技術協力を積極的に実施してきたが,その大部分が遺伝資源のex-situ保全のためのジーンバンク整備およびその技術向上を目的とするものに限定されている.遺伝資源事業をめぐる国際的動向は近年大きく変化し,育種素材提供のためのジーンバンクを中心としたex-situ保全から,途上国における農村開発と連動したin-situ保全を含む管理へとシフトしている.また,開発を支えるパラダイムも,経済開発中心から社会開発,参加型開発へと変化している.このような背景を受けて,わが国と類似の技術協力システムを持つドイツ政府およびその実施機関GTZの協力には大きな変化が見られる.初期の協力では,遺伝資源の保全と利用が十分に連動されず,その結果適切な管理が行われなかったことが認識され,ex-situ保全への協力は減退した.その後,植物遺伝資源管理における農民の役割や知識が評価され,新しい形態の協力が始められている.CBDやTRIPsが法的拘束力を持つことを前提に,新しい国際システム構築に貢献できる協力を実施している.具体的には,マクロレベルの政策的働きかけ(CBDのもとでの途上国内制度確立等)とミクロレベルでの農村開発における遺伝資源の保全と利用(コミュニティー/農民による保全等)の両面を国際機関やNGOと連携して実施している.さらに多様なステークホールダーのインセンティブ認識のワークショップも実施している.植物遺伝資源分野においてわが国が実施する国際協力が,開発途上国の農業農村開発に効率的かつ効果的に統合されるためには,ドイツの経験も参考にしつつ,植物遺伝資源分野の生物学的知見のみならず,国際協力の理念と手法開発の両面の国際的な動向を踏まえた学際的で広範な議論が不可欠である.CBDの枠組みだけに縛られることなく,むしろ,多くの援助機関が採用している参加型開発やキャパシティー・ビルディングの視点と遺伝資源の技術協力を有機的に連動させることが望ましい.日本の技術協力の強みである公的研究機関のキャパシティー・ビルディングの経験および.一般の農村開発協力において築かれている学際的な人的ネットワークを農業における生物多様性管理分野の協力においてどのように取り込むかが今後の課題である.
- 2002-12-01
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