次世代型PET装置(<特集>クリニカルPET時代の幕開け : 放射線技師が担う役割)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
陽電子放射性元素の体内分布を画像化する試みは20世紀中頃から始まったが、陽電子放射断層撮像法(PET)は、放射能の体内分布のみならず消滅放射線が体内で吸収される因子も未知量であるために、体内吸収因子のみが未知量のX線CTに比べると研究の進歩は遅かった。1970年代にX線CTが開発されると、その方法を転用してPET画像を得ることが可能となり、これを2DモードPETと称している。1980年代には多層検出器リングから成るPET装置が開発され、多断面の画像を同時に得ることができるようになった。しかるに、多層化した2DモードPETは体軸視野がいくら大きくても、放射される消滅放射線の99%以上は依然検出しておらず、無駄に逃している。さらに感度を向上するには、立体を独立した面の積層と見なさずに、立体をそのまま計測する必要があった。これは、同時計数計測法を基本原理としているPET独自の方法論から検討すべき問題であり、PET独自の3次元像再構成法が研究されたことにより実現可能となった。このPET独自の立体計測による投影データ取得方式は、3次元(3D)モードPETと称されている。しかし、3Dモードでは検出素子を斜めに見込む放射線を検出するために、検出素子の厚みにより解像度が劣化する。その度合いは立体計測を広げるほど大きくなるため、感度を向上するほど解像度が低下する。この問題を克服するには、検出素子の深さ方向のどこで放射線が吸収されたかを判別することが必要であり、深さ位置情報(Depth of interaction, DOI)をもつ検出器を用いた次世代型PET装置は、高感度・高解像度・高計数率特性を飛躍的に向上できる見込みがある。そのために、世界中で多くの研究者がDOI検出器の研究に取り組んできたが、実用的な検出器のレベルには未だに至っていなかった。放医研では数年前よりDOI検出器の開発研究を世界に先駆けて行ってきたが、2行2列のシンチレータ素子配列を積層にして、1面から得る4出力の光分配比により3段の深さ位置情報を得ることができたものの、従来は4段以上に積み上げると深さ位置を安定して同定することが難しかった。しかし最近、ドープするCeの濃度に依存してケイ酸ガドリニウム(GSO)結晶が蛍光減衰時定数を変えることを利用して、4段の深さ位置情報を安定して引き出せることが確認され、実用的なDOT検出器の実現が一挙に高まった。一方、DOI検出器が実用化できたとしても、その潜在能力を活かすには、その他の要素技術を見直して、新たな技術革新を進める必要のあることが認識されている。さらに、1つの検出器ユニット内で多くの情報が発生するため、それ自体で知的に情報を処理する工夫が不可欠であり、検出器ユニット間の情報伝達及び処理をきめ細かく行うことにより、従来の検出器では不可能だった位置情報の取得が可能になる。多数の出力信号をリアルタイム処理するための専用の特定用途向け集積回路(ASIC)を開発すると同時に、より高精度な画像形成のために、複数の検出素子にまたがるガンマ線の多重相互作用をリアルタイムに分析するなど、放射線検出情報を有効に活かす新たな工夫が望まれる。次世代型PET装置は、本来PETがもつ潜在能力を最大限に引き出すことを目標としており、従来のPETでは両立できなかった感度と解像度が飛躍的に向上し、予防医学に多大な貢献をするものと期待される。そのためには、装置の要素技術を新たに開発する必要があり、関連する基礎研究を着実に推進していくことが求められる。
- 2003-04-01
著者
関連論文
- 半径方向の分解能向上を目的としたPET画像再構成法の検討
- 実効原子番号の低い無機シンチレータを用いた高感度PET装置の検討
- PET用光分配方式DOI検出器における接着剤の屈折率の影響
- オンラインPETのためのオープンPET装置の検討
- 27pRA-1 PET用薬剤から放出された陽電子の水等価シンチレータによる飛程観測(27pRA 放射線物理(阻止能・エネルギー損失),領域1(原子・分子,量子エレクトロニクス,放射線物理))
- "Open-PET" に向けたピクセル型シンチレーション検出器の開発
- APDを受光素子として用いた4層DOI-PET検出器の開発
- 全身用PET検出器における結晶識別能向上のための新手法
- オープンPET装置のイメージングシミュレーション(Poster2)
- 高速なγ線検出器と Time-of-Flight PET への応用
- 立体計測型PET用放射線検出器ユニットの提案
- PET・光同時イメージング装置における蛍光および内部発光観測の違いが光断層像再構成に与える影響
- 次世代PET装置jPET-D4の画像再構成における並列計算手法の検討(画像再構成)
- PET装置の校正と定量性の向上(JRC2008合同シンポジウム3)
- JRC合同シンポジウムPET装置の校正と定量性の向上
- New Tracking Method for Head Motion Using a Single Camera and a Solid Marker
- 解析的SPECT画像再構成法の比較-脳血流SPECTに関して-
- 新しい核医学技術-21世紀の展望 : 司会の言葉
- 体動補正付PET画像再構成における感度画像計算法の基礎的検討
- 近接撮影型DOI-PETの画像再構成における観測系モデルの検討
- 検出器配置の異なる近接撮影型DOI-PET装置の計算機モデルによる感度・計数率特性の比較
- 小動物用DOI-PET装置"jPET-RD"の2次元イメージングシミュレーション
- 観測系の冗長性を考慮した代数的なDOI-PET画像再構成
- Depth-of-Interaction情報を用いた代数的な2次元PET画像再構成
- 日本医用画像工学会「論文賞」受賞者のことば
- 次世代PET用Depth of interaction(DOI)検出器のシミュレーション(I) : 検出器ブロック単体でのDOI位置弁別精度の解析
- 核医学検査における安全管理等に関するアンケート調査報告 第7報
- 核医学の安全管理等に関するアンケート調査報告 : 中間報告
- jPET-D4画像再構成における検出器内散乱の影響と位置弁別領域の最適化
- D-16-6 機能検証システムを用いたjPET-D4の分解能評価(D-16. 医用画像)
- 次世代PET装置におけるデータ収集システムの基礎的検討
- D-16-5 逐次近似型DOI-PET画像再構成におけるシステムマトリクスの高速計算(D-16. 医用画像)
- 放射能のトレーサビリティとPETの定量化
- 次世代型PET装置(クリニカルPET時代の幕開け : 放射線技師が担う役割)
- 非侵襲的ホウ素濃度分布測定システムの基礎的検討
- 医療画像標準規格DICOMとPET画像データベース
- 立体計測型PETにおける再構成画像の信号対雑音比に関する最適化
- H-18 DOI-PETリストモードデータからの確率密度関数を用いたサイノグラムデータ生成手法(医用画像処理,H.生体情報科学)
- DOI 情報を用いた PET 画像再構成の計算機シミュレーション
- PET装置の開発と普及における日本の進む道 : 司会の言葉
- 次世代PET検出器「クリスタルキューブ」の位置演算における情報取捨選択法
- 次世代PET用Flat Panel PS-PMT試作品のエネルギー特性
- 次世代PET用DOI検出器の光学的モデルの考察
- 次世代PET試作機:jPET-D4 (特集2 CT技術のブレイクスルー2006)
- 次世代PET構想 (特集 CT技術のブレイクスルー)
- 次世代PET装置の開発
- PET : DOI-PETの研究動向と課題(医用画像論文)
- 第95回日本医学物理学会学術大会開催にあたって
- 高感度・高解像度・高速度を目指す次世代のPET装置
- 次世代PET装置の開発 : 現状と今後の展開(巻頭企画,PET関連論文特集号)
- 解析的SPECT画像再構成法の比較
- 解析的SPECT厳密解の比較検討
- PET (医用画像システム--基礎と臨床応用(2))
- 4層DOI(深さ位置情報)効果を示した世界初の画像
- 時空を超えて
- 次世代PET
- PET装置の進歩
- 放射線イメージング技術の最前線(第6回) : 次世代PET装置の開発
- 次世代型PET装置
- ポストゲノム時代の機能診断用次世代PET装置
- PET臨床1 : 次世代型PET
- 3.核医学イメージング機器の進歩と定量性(第57回総会学術大会シンポジウム II)(腫瘍核医学技術の新しい展開)
- ポジトロンCT
- 本学会会員の福村明史氏が「クリスト・シュメルツァー賞」を受賞
- 2000 IEEE Medical Imaging Conference 印象記
- 画像の再構成とデータ補正
- 球形一様線源分布の3次元ポジトロン再構成像における統計ノイズの特性
- 一様吸収体における2次元PET画像の統計ノイズ特性に関する分析
- 開放型PET装置の研究開発
- 分子イメージングにおける次世代のPET装置開発
- 小動物用PET装置の開発
- 話題の製品と技術 次世代のPETイメージング技術--高解像度と高感度を両立する3次元放射線検出器
- 代数的手法に基づく高速なPET画像再構成手法の臨床機を用いた評価
- 立体計測型ポジトロン断層撮像法における画像再構成
- 新生「医学物理」の役割を考える
- PETの放射線検出系
- 半導体受光素子を用いた次世代PET検出器"X'tal Cube"の開発 (特集 第4回放医研 国際オープンラボラトリーワークショップ「細胞および分子に及ぼす軽イオンの影響」)
- がん診断と治療を融合する"OpenPET"の提案 (特集/第1回放医研国際オープンラボ開設記念ワークショップ「放射線治療における技術革新」)
- PET検出器におけるレーザ加工結晶内のGPUベース光伝搬シミュレーション(イメージング・画質改善・CAD・PET,ポスターティーザー2,統計モデルとその応用,医用画像一般)
- 次世代PET装置におけるデータ収集システムの基礎的検討
- PET検出器におけるレーザ加工結晶内のGPUベース光伝搬シミュレーション
- FDG-SPECT検査のための装置特性
- 次世代PET用Depth of interaction(DOI)検出器のシミュレーション(I) : 検出器ブロック単体でのDOI位置弁別精度の解析
- 核医学イメージングにおける画像再構成法
- PETのデータ補正と3次元像再構成
- 呼吸性体動に対応したPETベース腫瘍トラッキング(テーマセッション3 診断・治療支援2, 計算解剖モデルとその診断・治療支援への応用,医用画像一般)